不動産の賃貸と売却を選択する際の選び方と適用可能な特例
2024/04/19
転勤や転職などの際には、新居へ引っ越しが必要となる場合もあります。
元々部屋などを借りていたという方は、その部屋を家主の方に返すだけで済みますが、不動産自体を所有しているという方はその処理に頭を抱えてしまうケースもあります。
使わなくなった不動産を処理する方法としては、一般的に
「賃貸にする」
「売却する」
のどちらかが採られるのが一般的です。
この記事では、不動産を賃貸にするか売却にするのかの判断基準や、売却時の特例などについてご説明致します。
目次
不動産を賃貸にする際の特徴
マンションなどの不動産を貸すか売るかの判断は、それぞれの特徴を把握した上で検討するのが効果的です。
この項目では、不動産の賃貸として他人の方に貸す場合のメリット・デメリットについてご説明致します。
不動産を賃貸にするメリット
マンションなどの不動産を貸す場合、主に下記のようなメリットがあります。
- 不動産を保有したままでいられる
- 不動産を売却した場合は資産が手元から無くなってしまいますが、賃貸とした場合は貸すだけなので資産自体が手元に残ります。
- 分譲マンションの場合は若干高めの賃料とできる場合がある
- 分譲マンションは、賃貸用マンションよりも設備や仕様・管理などがしっかりしている場合が多く、同じエリアの賃貸用マンションよりも高めの賃料を設定できる可能性があります。
- 定期的に賃料を受け取れる
- 不動産を貸した場合、毎月決まった賃料を受け取れます。
- 住宅ローンの負担が少なくなる可能性がある
- 不動産の賃料は、ある程度まとまった金額となる場合も多いため、月々の経費を差し引いても住宅ローンの返済額を上回り、黒字となる可能性があります。
- 支払う税額を減らせる可能性がある
- マンションを賃貸とした場合、「住宅ローンの金利」・「固定資産税」・「管理費」・「修繕積立金各費用」なども経費とできるようになります。
- 経費の金額が大きくなりますと、確定申告の際の控除額が増え、必要な税額を抑えられます。
不動産を賃貸にするデメリット
マンションなどの不動産を貸す場合、主に下記のようなデメリットがあります。
- 収入が不安定となる場合がある
- 賃貸物件で収益を出すためには、常に入居者がいる必要があります。
- 入居者がいない間は、収入がない状態で管理費などを支払う必要があり、総合的に赤字となる可能性があります。
- 賃貸のために様々な手間と費用が継続的に掛かる
- 敷金や礼金の集金・部屋のクリーニング・入居者の募集・水回り・エアコンなどの修繕などは、貸主の方が行う必要があります(費用も貸主の方の負担となります)。
- 更に管理会社に管理を委託したり、入居者を探すために不動産会社に仲介を依頼したりする場合には、それらの料金も追加で発生します。
- 借主の方とトラブルになる可能性がある
- 借主の方と貸主の方の間でトラブルが起こるケースや、借主の方が起こしたトラブルなどの対処を求められるケースなど、様々な問題が起こる可能性があります。
- 経営自体に手間が掛かる
- 賃料の回収や契約更新の手続き、定期的なメンテナンスなど、オーナーの方がご自身で全ての管理を行う場合には非常に手間が掛かります。
- 将来に売り出す際のリスクが高い
- 将来的に賃貸物件を売り出す際に、借主の方が立ち退きを拒否した場合、その不動産は「収益物件」となり、一般的な不動産よりも価格が低く、売れにくくなってしまいます。
- 住宅ローンが残っている場合は二重ローンとなる
- まだ住宅ローンが残っている状態で不動産を賃貸物件とした場合、そのローンを支払いながら新居を購入するためのローンを組むため、二重ローンとなってしまいます。
- 賃貸中に部屋が傷む可能性がある
- 不動産自体を綺麗に使ってくださる借主の方もいらっしゃいますが、その反対のケースがあるという点にも意識が必要です。
- 経過年数により価値が下がっていく
- 不動産は、時が経つにつれ傷んでいきます。
- 将来的に売却をお考えの場合、賃貸期間の影響で不動産自体の価値が下がってしまう可能性を想定しておく必要があります。
- 事故物件になるリスクがある
- 人には様々な背景や人間関係があるため、将来的にどのような事件や事故が起こるかは分かりません。
- 場合によっては、借主の方に大きな事件や事故が起こってしまい、不動産自体が事故物件となってしまう可能性もあります。
- 税金に関わる特例が受けられなくなる可能性がある
- 将来的に賃貸物件を売り出す予定の方は、各特例の適用要件について意識が必要です。
- 賃貸物件を売却する際の特例や注意点などにつきましては、同ページの「賃貸用不動産を売却する際の特例」に記載しておりますので、お手数をお掛け致しますがそちらをご覧ください。
不動産を売却する際の特徴
先ほどは、不動産を貸す場合の特徴について記載しました。
この項目では、不動産を売却する場合のメリット・デメリットについてご説明致します。
不動産を売却するメリット
マンションなどの不動産を売却する場合、主に下記のようなメリットがあります。
- 得られる収入を確定できる
- 不動産を売却した際には、一括で売却代金が手に入ります。
- 賃貸による不動産の劣化もないため、その時点での適正価格で不動産を売り出せます。
- 空室などの心配をしなくても良い
- 不動産売却では、一度買主の方が見つかりますと、その時点で取引が終了します。
- 賃貸のように将来ずっと借主の方を探す必要はありません。
- 毎年の確定申告が不要となる
- 不動産を売却して利益が出た際には、売却した年に確定申告と納税を行うだけで済みます。
- 不動産の管理の手間や維持費が掛からない
- 一度売れた不動産は他の方に所有権が移っているため、管理の手間が無くなり、維持費などが発生しなくなります。
- 賃貸よりもトラブルが起こりにくい
- 不動産売却は、多くの方が仲介業者に仲介を依頼するため、トラブルなども対処がしやすいのが一般的です。
- 不動産が売れた後も、重大な瑕疵などがなければ、大きなトラブルが起こるケースも少なくなります。
不動産を売却するデメリット
マンションなどの不動産を売却する場合、主に下記のようなデメリットがあります。
- 売却後にインフレなどの影響を受ける可能性がある
- インフレ時には不動産などの資産価値が上がるため、売却後にインフレが起こると損をしてしまう可能性があります。
- 売却に関する諸費用が掛かる
- 不動産を売却するためには、状況に応じて様々な費用が必要となります。
- 後に高額な納税が必要となる場合がある
- 不動産を売却した後には、売却代金に対して税金の納付が必要となります。
- 不動産は高額な売却代金となる場合も多いため、納付が必要な税金が高額となる可能性もあります。
- 長い間売れの残る可能性がある
- 不動産はすぐに売れるとは限らず、買主の方が現れなければずっと売れ残ります。
- 不動産が長い期間売れない場合、結局は賃貸用としておいたほうが良かったとなるケースもあります。
不動産の賃貸・売却の選択
一般的には賃貸のほうが難易度も高いため、「理由はないけれど貸し出してみよう」という考えは危険です。
場合によっては賃貸のほうが効果的となるのも事実ですが、実際はケースバイケースです。
この項目では、不動産を貸すのか売るのかの判断基準などについてご説明致します。
貸すか売るかを判断する基準
お持ちの不動産を貸すか売るかの判断は、所有者の方の状況により最適なほうが異なってきます。
駅から徒歩10分以上の物件は賃貸されにくいといった意見もあり、立地の観点から賃貸と売却を選択することも大切です。
他にも、賃貸と売却それぞれの支出を総合的に判断した上で選択する必要もあります。
収支以外に、下記のような項目についても検討していくことが必要です。
【判断材料の一例】
- 売却した際の収支
- 賃貸した際の収支
- 将来のライフプラン
- 不動産の売却益や賃料の使い道
- 売買市場の動向
- 賃貸市場の動向
賃貸と売却の利益を予想する方法
不動産を貸す場合と売る場合の利益を比べる場合、「マンションPER」と「利回り」を参考にする方法があります。
この項目では、このマンションPERと利回りについてご説明致します。
マンションPERを用いた計算
「マンションPER」とは、どのくらいの期間マンションを貸し出せば、購入価格分を回収できるかを表した数値です。
不動産を売却した場合、過去の購入価格ほどの価格になるケースは稀であるため、この数値を参考として賃貸と売却を選択する場合もあります。
(不動産投資の場合は、20以下の数値が好ましいとされております)
マンションPERは、下記の算式で計算を行います。
マンションPER = マンションの購入価格 ÷ (賃料(月額) × 12ヶ月)
上記の算式で、購入価格が「3,000万円」のマンションを月額賃料「10万円」で貸した場合のマンションPERを計算してみます。
3,000万円 ÷ (10万円 × 12ヶ月) = 25
この例では、部屋に空室となる期間がなければ、25年でマンションの購入価格を回収できるという計算となります。
表面利回りと実質利回りの計算
不動産の賃貸と売却の選択をする際には、貸した場合の利回りを計算してみるという方法もあります。
利回りには、主に2種類あり、それぞれ下記のような意味となります。
- 表面利回り
- 管理費や維持費などの経費を考えない利回り
- 【表面利回りの計算式】
年間賃料収入 ÷ マンションの購入価格 × 100 - 実質利回り
- 管理費や維持費などの経費を含んでの利回り
- 【表面利回りの計算式】
(年間賃料収入 – 運用経費) ÷ マンションの購入価格 × 100
購入価格が「3,000万円」のマンションを、月額賃料「10万円」で貸した場合の表面利回りと実質利回りは下記のようになります。
なお、マンションの運用経費は、賃料収入の20%として計算をします。
- 表面利回り
- (10万円 × 12ヶ月) ÷ 3,000万円 × 100 = 4%
- 実質利回り
- {(10万円 × 12ヶ月) – (240万円 × 20%)} ÷ 3,000万円 × 100 = 2.4%
不動産投資などの場合には、実質利回りが「7%」以上あるのが好ましいですが、それ以外の方は、売却代金と総合的に判断する必要があります。
賃貸用不動産を売却する場合
この項目では、今まで第三者に貸していた不動産を売却する場合についてご説明致します。
賃貸用の不動産を売却する手順
借主の方のいない賃貸物件は、通常の不動産と同様の手順で売却ができますが、借主の方がいる状態での売却は違います。
通常、このような不動産は「収益物件」となり、通常の市場価格よりも安くなってしまうのが一般的です。
更に、借主の方から預かっている敷金や、先払いで受け取っている賃料は、不動産の売却代金から差し引いて買主の方と清算をするのが一般的です。
例えば、マンションが「3,000万円」で売れ、「30万円」の敷金・「10万円」の賃料を先払いで受け取っている場合には、最終的に受け取れる売却代金は下記のようになります。
3,000万円 – 30万円 – 10万円 = 2960万円
賃貸用不動産を売却する際の特例
賃貸物件を売却する際には、売却後に受けられる特例についても注意が必要です。
例えば、一般的に多くの方が適用する「居住用財産の3,000万円万円特別控除」は、その不動産に住まなくなった日から3年目となる年の年末(12月31日)までに売却をしなくては、特例の適用ができなくなってしまいます。
この特例が適用できない場合、税金計算の際に不動産の売却代金から「3,000万円」を控除できなくなってしまいます。
また、個人が賃貸などの事業の用に供していた不動産を譲渡した後、一定期間内に特定の土地建物などの資産を取得し、その取得の日から1年以内に買換え資産を賃貸などの事業の用に供した場合、「特定事業用資産の買換え特例」を受けられる可能性があります。
特定事業用資産の買換え特例では、
不動産の売却代金が新しく買換えた不動産の購入代金よりも少ない(同じ)場合には、「売却代金 × 20%」した額を譲渡所得とし、
不動産の売却代金が新しく買換えた不動産の購入代金よりも多い場合には、「(売却代金 – 購入代金) + (購入代金 × 20%)」した額を譲渡所得として税金計算を行えるようになります。
まとめ
使わなくなった不動産の賃貸とするのか売却とするのかの判断は、慎重に行う必要があります。
ご自身の状況などにより適切なほうは変わりますので、将来的なライフプランや全体的な収支バランスなどをよく検討しておくことが重要です。
それぞれのメリットやデメリットを確認し、賃貸と売却の選択をするようにしてください。