離婚時に所有をしている不動産を売却する場合の基礎知識
2015/12/16
不動産の売却を行う理由は、人それぞれ異なっております。
相続した不動産の売却、使用しなくなった住宅の売却、個人的な事情による売却など、その理由は様々です。
その中でも、最近に増えてきているのが、離婚による不動産売却になります。
やはり、離婚の際に不動産などを所有していると、各所で面倒なことになってしまうことも少なくありません。
このページでは、そんな離婚に伴う不動産売却についての情報を記載しております。
目次
住宅購入後の離婚
近年、離婚する夫婦が増えてきており、その割合は全体の3分の1に及ぶとも言われております。
やはり、離婚の時には、相手との確執を生まないためにも、財産などの金銭的な問題はきちんとしておきたいものです。
この時に、トラブルになりやすいのが、所有している不動産をどのように対処するかという部分になります。
実際に、不動産の問題を解決しないまま離婚が成立し、後にそのことが原因でトラブルが起こってしまうというケースも珍しくありません。
やはり、離婚の際には、トラブルの引き金になりそうな問題を解決してから、各種手続きを行うようにすることが大切です。
この項目では、こういった問題についての説明と、実際の不動産の処分の方法について記載しております。
まずは、離婚時に財産分与が必要なものについてご説明致します。
財産分与が必要なものの目安
離婚の際には、夫婦で協力して築き上げてきた財産をお互いの貢献度に応じて分配していかなくてはいけません。
夫婦で築き上げた財産ならば、例え片方名義の財産や借金であっても、夫婦の間で清算し分配をする必要があります。
これは、「財産分与」と言われているもので、もちろん、婚姻中に購入した住宅などもその対象になります。
財産分与をする必要がない財産としては、「婚姻前の財産」や「親から相続した財産」、「個人で購入したもの」などの個人で築き上げた財産だけです。
また、財産分与請求権の時効は2年となっておりますので、請求をする場合にはその期間以内にしておく必要があります。
共有財産 | 実質的共有 財産 |
特有財産 |
---|---|---|
婚姻中に取得した共有名義 の財産 |
婚姻中に取得した片方名義 の財産 |
婚姻前から所有している個人 の財産 |
財産分与の 対象になる |
財産分与の 対象になる |
財産分与の 対象でない |
家財道具・不動産(土地や建物や別荘)・自動車・銀行預金・株券(有価証券など)・ゴルフ会員権・美術品など | 夫婦の一方が婚姻前から持っていた財産・片方名義で相続や寄与により取得した財産など |
以上が、離婚時の財産分与の対象になる財産になります。
これらを見ても分かる通り、離婚後に不動産を売却した際には、財産分与が必要になる場合が殆どです。
次は、離婚時の財産分与の基本的な持ち分についてご説明致します。
基本的な財産分与の持ち分の目安
財産分与の際には、夫婦それぞれが大体どの位の持ち分になると考えておけば良いのでしょうか?
これは、基本的に半分半分だと思っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、実際には、夫婦が暮らしてきた状況などで、その割合が異なってくるのが一般的です。
例えば、夫婦が共働きであれば、原則として割合は折半になるケースが多いと言われております。
共働きは折半になると言っても、得た収入や実際の労働時間、能力などに著しい差がある場合には、この割合が変化することもあります。
一方、妻などが専業主婦であった場合には、家事労働の財産形成の寄与度により、妻側が3割~5割程度の割合になることが多いようです。
この時に、5割になるケースとしては、不動産購入時などに妻が現金を出している場合や、扶養的な要素を考慮した場合になります。
また、夫婦で事業を営んでいらっしゃる場合は、大体半々の割合になることが多いですが、手腕などの力関係によっては、寄与度がそれ以下になることもありますのでご注意ください。
以上が、離婚時の財産分与の主な持ち分の目安になります。
もちろん、これらは目安ですので、必ずこの割合になる訳ではありません。
次は、離婚時の住宅の処理方法と、その場合の財産分与の持ち分についてご説明致します。
住宅の財産分与の持ち分の目安
離婚する夫婦の事情によって、やはりどのように不動産を処理するのかは変わってきます。
離婚をする際には、主に以下のような手段を取ることが多く、それぞれで財産分与の方法が異なってくることが殆どです。
- 夫と妻の両方が出て行き、今まで住んでいた住宅には誰も住まない場合
- 住宅の所有者が住み続け、住宅ローンの返済も所有者が続ける(妻などが出て行く)場合
- 住宅の所有者であり、主たる債務者であるほうが出て行き、住宅に住み続ける(夫などが出て行く)場合
- 住宅名義を債務者でないほうに変更し、ローン返済は債務者がそのまま行う(住宅名義だけを変更する)場合
まず、「夫と妻の両方が出て行き、今まで住んでいた住宅には誰も住まない場合」は、住宅を売却し、その売却益を分配するというのが一般的です。
一方、「住宅の所有者が住み続け、住宅ローンの返済も所有者が続ける(妻などが出て行く)場合」は、単純に家を売却してその売却益を分配するという訳にはいきません。
そのため、こういった場合には、住宅の時価から住宅ローンなどの残りを差し引いた金額が財産分与の対象金額になります。
また、「住宅の所有者であり、主たる債務者であるほうが出て行き、住宅に住み続ける(夫などが出て行く)場合」も、単純に家の価値を分配すれば良いという訳ではありません。
この場合は、夫婦の間で賃貸契約を交わし名義者に家賃を払うか、使用賃借契約によって無償で住ませて貰うという方法を取ることが多いです。
最後に、「住宅名義を債務者でないほうに変更し、ローン返済は債務者がそのまま行う(住宅名義だけを変更する)場合」は、どのように財産分与を行うことになるのでしょうか?
これは、ローンの返済を行っていくほうの負担が大きいため、預貯金の分与などといった部分での財産分与で、債務者の負担を軽くするための調整がされることがあります。
もちろん、お互いの状況や離婚の理由などによって、一概に上記のようになるとは限りませんが、一応の目安としてはこのようになるということを覚えておいてください。
以上が、離婚時の住宅の処理方法と、その場合の財産分与の持ち分の目安になります。
次は、離婚の際に、作成を行っておきたい書類などについてご説明致します。
離婚の時に離婚協議書を作成
離婚協議書とは、子供の親権と教育費、慰謝料の金額、財産分与などの離婚の時や離婚の後の約束事を記した書面になります。
やはり、離婚の時には、お互いの妥協や主張の間に思い込みが生まれていることもありますので、こういったものを作成しておくと安心です。
とはいえ、この離婚協議書は、あくまで離婚に関する約束事を「記しているだけ」なので、いざという時に法的な強制力はありません。
そのため、法的な強制執行などが必要になりそうな場合には、きちんと「公正証書」を作成しておく必要があります。
公正証書を作成するには、公証人役場に行って専門家である公証人に作成をお願いしなくてはいけません。
そのため、離婚の手続きなどと併用して、順番に書類を作成しておくようにしてください。
以上が、離婚の際の書類作成についての説明になります。
次の項目では、離婚による住宅ローンの連帯保証人の名義変更についてご説明致します。
連帯保証人の名義変更について
やはり、離婚の時に住宅ローンなどの共有名義や連帯保証人をそのままにしておくと、後に様々なトラブルに遭ってしまう可能性があります。
そのため、離婚が成立する前に、連帯保証人などの名義変更をする、または外しておくなどの処理をしておきたいものです。
この場合、住宅ローンの債務者に十分な経済力があれば、連帯保証人を簡単に外せると考えがちですが、実はそうではありません。
そもそも、住宅ローンの連帯保証人は、夫婦の間での取り決めではなく、抵当権を持つ銀行との取り決めです。
そのため、ローンの返済途中に連帯保証人を変更・解除することは、銀行との約束を違えるということになりますので、そう簡単に手続きを行うことはできません。
では、どういった方法を取れば、連帯保証人を変更・解除できる可能性があるのでしょうか?
この項目では、こういった住宅ローンの連帯保証人の変更・解除の方法について記載しております。
まずは、住宅ローンの残りを借り換えて連帯保証人などを解除する方法をご説明致します。
残債を借り換えて解除する方法
連帯保証人を変更・解除したい場合、離婚までに住宅ローンを一括で返済してしまえば、その連帯保証人としての義務は無くなります。
とはいえ、今までと同じ経済力で、住宅ローンを離婚までに一括返済するというのは、どう考えても不可能です。
そのため、この方法を実行するためには、住宅ローンを一括返済できるだけのお金を何かしろの方法で手に入れなくてはいけません。
そういった時に役立つのが、「住宅ローンの残債分を他の銀行などで借り換えて一括で返済する」いわゆる借り換えローンを新規に組むという方法です。
この時に、住宅ローンの残債を債務者の年収だけで借り換えることができれば、新規の借り換えローンに対して連帯保証人を連れてくる必要はありません。
そのため、この方法が上手くいけば、間接的に元のローンのほうの連帯保証人を解除できるという訳です。
以上が、住宅ローンの残りを借り換えて連帯保証人を解除する方法になります。
次は、住宅ローンの連帯保証人を他の方に代わって貰う方法についてご説明致します。
別の人に代わって貰う方法
住宅ローンの場合、一定以上の収入がある代替人を連れてくることができれば、連帯保証人の変更ができる場合があります。
とはいえ、やはりこのようなリスクを冒してまで、代替人を引き受ける他人はまずいません。
そのため、かなり親しい親族などにこういった方がいない場合には、自然とこの方法での名義変更は諦めることになります。
また、万が一、代替人が現れたとしても、収入などに難がある場合には、銀行の許可を得ることはできません。
以上が、住宅ローンの連帯保証人を他の方に代わって貰う方法になります。
次は、固定資産を担保にして、連帯保証人を解除する方法についてご説明致します。
固定資産を担保にする方法
住宅ローンの連帯保証人を解除する方法として、固定資産を担保にするという方法もあります。
住宅ローンに相当する資産を担保にすれば、銀行側も連帯保証人の解除に対して文句を言うことはありません。
この場合、当然ですが本人やその身内が、一定以上の資産を有していることが条件になります。
ここで注意をしておきたいのは、万が一、債務者がローンの返済をできなくなった場合、担保にしている固定資産が銀行に差し押さえられてしまうというという点です。
そのため、債務者がローンの返済などを怠ってしまう危険がある場合には、少々不安が大きい方法になります。
やはり、離婚の後には債務者の生活も大きく変わりますので、ローンの返済に何か問題が起こる可能性もゼロではありません。
そのため、この方法を選択する際には、離婚の後のローン返済の確実性などの確認をしておくことが大切です。
以上が、固定資産を担保にして、連帯保証人を解除する方法になります。
こういった方法を見ていても、離婚時に住宅ローンの残っている住宅を所有したままにしておくと、様々な面で問題があるということが分かります。
そのため、こういった問題を一気に解決するには、不動産売却を行ってしまうのが効果的です。
とはいえ、住宅ローンの残っている不動産の売却は、通常の売却とは異なる手段で売買を行わなくてはいけません。
最後の項目では、こういった住宅ローンの残っている住宅を売却する方法についてご説明致します。
離婚前の住宅ローン処理方法
万が一、離婚の時に住宅ローンが残っている場合、夫婦共々その処理に頭を抱えることも珍しくありません。
やはり、離婚ともなると夫婦関係が悪化していることも多く、連帯保証人や名義の問題などの話し合いが上手くいかないこともあります。
また、どちらかが住宅を所有して維持するにしても、離婚による生活の変化によって、ローン返済の負担が大きくなってしまうこともよくあることです。
そのため、離婚の際には、いっそのこと住宅を売ってしまおうと考える方も多いのではないでしょうか?
この項目では、こういった住宅ローンの残っている不動産の売却方法について記載しております。
まずは、住宅を売却した際に
「アンダーローン」であった場合と
「オーバーローン」であった場合
についてご説明致します。
アンダーローンとオーバーローン
住宅ローンが残っている不動産の売却を行う際には、ローン残債に対して売却金がどの程度になるのかという点に注意をしておかなくてはいけません。
その時の売却金が、ローン残債よりも高い場合は「アンダーローン」となり、ローン残債よりも低い場合は「オーバーローン」となります。
もしも、離婚の時に住宅の価値が「アンダーローン」であれば、住宅を売却すると売却益が生じるため、問題なく売却を行うことができます。
その場合は、売却金をローン残債に充てて一括返済を行い、残った金額をお互いに分与するというのが一般的です。
一方、住宅の価値が「オーバーローン」であった場合は、少しややこしい処理が必要になります。
本来、法的には、抵当権が付いた不動産でも売却は可能なのですが、ローンの残っている不動産を抵当権者の承諾なしに売却することは殆どありません。
何故なら、例え売却をしたとしても、そのような不動産を買うような人はあまりいないからです。
そのため、住宅の価値が「オーバーローン」であった場合には、自然と不動産の抵当権などの問題を解決してから、売却を行うことになります。
もちろん、本来ならば、離婚などによって住宅ローンの返済が難しくなった不動産は、銀行などに差し押さえられ競売に掛けられます。
競売の場合、売却額が市場価格よりも低くなることが多い上に、住宅が競売にかけられたことが近所に知られてしまう可能性も高いです。
そのため、こういった際には、競売ではなく、任意売却という方法を使って不動産を売却するという事例も多くあります。
任意売却とは、債権者に債権額の一部を返済し、抵当権を抹消して貰ってから不動産の売却を行う方法のことです。
次は、この任意売却のメリットデメリットについてご説明致します。
任意売却のメリットとデメリット
住宅ローンの返済が困難になった際に任意売却を選択すると、競売にはない様々なメリットを期待できます。
まず、任意売却をした場合に期待できるメリットとして、競売よりも高い価格で不動産を売却できるということが挙げられます。
更に、その手続きの際に、持ち出し費用などが掛かることがないため、金銭的な負担も軽くなります。
他にも、任意売却後には、銀行などがローン負担額の軽減や残債の圧縮を行ってくださる可能性があるというのも大きなメリットです。
また、競売とは異なり、近所などに住宅を売却した理由やいきさつなどが知られてしまうこともありません。
【任意売却のメリットまとめ】
- 不動産を競売よりも市場価格に近い価格で売却できる
- 当事者が任意売却に掛かる費用を出さなくても良い(持ち出し費用)
- 残債の処理における負担が少なくなる可能性がある
- 売却の際に近所に知れ渡らないため安心して売却ができる
その一方で、任意売却には、メリットだけが存在している訳ではなく、もちろんデメリットと思われる部分もあります。
まず、知っておきたいデメリットとしては、債権者全員の同意が必要で、手続きなどが面倒であるということです。
更に、競売が成立する期間までに売却を終えなくてはいけないという厳しい時間制約があることも覚えておかなくてはいけません。
また、いくら任意売却が高額で売却できると言っても、時には売却が上手くいかず失敗してしまうこともあります。
任意売却後には「個人信用情報(ブラックリスト)」に載ってしまうため、そういった面の配慮も必要になります。
【任意売却のデメリットまとめ】
- 債権者全員の同意が必要不可欠であり手続きや交渉が面倒
- 時間制約があり競売が成立するまでに売却を終えなくてはいけない
- 任意売却をしても必ず売却が上手くいくとは限らない
- 任意売却をすると個人信用情報(ブラックリスト)に載ってしまう
こういったメリットやデメリットがある任意売却ですが、やはり、競売を選択するよりは効果的に不動産を売却できる場合が多いです。
以上が、任意売却を行った際のメリットとデメリットになります。
離婚の際には、不動産の処理方法を十分に思案し、お互いに納得のいく方法を取るようにしてください。