法人が不動産を売却する際の消費税の扱いと6つの按分方法
2018/10/23
不動産の売却は、個人・法人のどちらでも行えます。
個人と法人が不動産を売却する場合、売買の流れ自体に大きな違いはありませんが、後の消費税の扱いに違いがあります。
この記事では、法人が不動産を売却した際に必要となる消費税についてご説明致します。
目次
法人の不動産売却と消費税の関係
現在、法人が所有者となっている不動産は数多く存在します。
法人が、所有している不動産を売却する際には、消費税に対して注意が必要です。
個人と法人の消費税の扱いの相違
日常の生活では、殆どの商品を購入する際に消費税が掛かります。
元々消費税とは、事業を営む事業者が「事業」として利益を得て行う取引に課税がされます。
課税の対象となる「事業」とは、お金を得るために、繰り返し同じ種類の活動を行っている状態を指します。
これにより、継続してお金を稼ぐ活動を行う「法人」などは「事業者」という扱いとなり、消費税の課税対象となります。
消費税の課税対象には、不動産の売却益なども含まれます。
そのため、法人などが不動産を売却しますと、消費税の納付が必要となります。
個人の方は、日常に繰り返しお金を稼ぐような行為は行っておらず、不動産を売却したとしてもその1回でお金のやり取りが終わります。
これは事業者という扱いとはなりませんので、個人の方が不動産売却時に消費税を納付する必要はありません。
なお、個人であっても事業を営んでいる「個人事業主」や、個人が事業用として使ったり賃貸していたりする不動産を売却した際には、消費税の納税義務が生まれます。
また、法人の課税売上高の金額によっては消費税の納税義務が免除される場合もありますので、事業者の方は事前にお確かめください。
消費税の免税事業者制度につきましては、同ページの「消費税の納付をしなくても良い条件」に記載しておりますので、お手数をお掛け致しますがそちらをご覧ください。
建物と土地の売却に対する消費税
先ほど、事業者が不動産を売却した際には、消費税が課せられると記載をしました。
ただ、これには少々語弊があり、実際は売却した不動産の「建物部分」の金額のみに消費税が課税されます。
土地に関しては、例え事業者が売却したとしても、原則非課税となります。
これはマンションも例外ではありません。
通常、マンションには人が住んでいる「建物部分」と、その建物が経っている「敷地の利用権」が存在します。
建物部分は、通常の不動産と同様に消費税が掛かりますが、敷地の利用権は土地と同様に消費税の課税対象から除外されます。
マンションも一戸建ても、殆どの場合、土地と建物を一緒に売却しますので、後にこれらの代金を分割して消費税の計算が必要となります。
ただ、不動産売買時には価格交渉などが行われる場合も多く、最終的に土地建物の総額で取引が行われるケースも多くあります。
これでは、建物と土地の各価格が分からなくなってしまいますので、一度価格の割合を按分する必要が出てきます。
一緒に売却した建物と土地の価格割合の按分方法につきましては、同ページの「土地と建物の割合を分ける方法」に記載しておりますので、お手数をお掛け致しますがそちらをご覧ください。
消費税の納付をしなくても良い条件
法人が建物を売却した際には、消費税の納付が必要となりますが、中には例外も存在します。
例えば、少額の取引しか行っていない事業者の場合、消費税が課税されますと、実際の計算や申告の納税事務負担が大きくなってしまう可能性があります。
そのような事業者を配慮して、法律で「免税事業者制度」という決まりが定められております。
免税事業者制度とは、基準期間の「課税売上高(消費税の課税対象取引の金額)」が一定金額以下であれば、免税事業者とみなされ消費税の納税義務が免除されるという決まりです。
具体的には、その消費税の計算をする事業年度の「2期間前の事業年度」の課税売上高が「1,000万円以下」の場合に、消費税の納税義務が免除されます。
【事業年度】
- 個人事業者→毎年1月1日から12月31日
- 法人→1年以内で法人が自由に決めた期間
なお、基準期間の課税売上高が1,000万円を下回っていても、状況によっては、免税事業者制度を受けられない場合もあります。
免税事業者制度を受けられない状況につきましては、下記でご説明致します。
免税事業者制度を受けられない状況
免税事業者制度の適用要件を満たしている場合でも、下記のいずれかの要件に当てはまる場合には、「納税義務の免除の特例」として制度の適用ができなくなります。
- 特定期間の課税売上高が1,000万円超え
- 特定期間の課税売上高が1,000万円を超えている場合
-
【特定期間の概念】
- 法人→原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月
- 個人事業者→その年の前年1月1日から6月30日まで
- 消費税課税事業者選択届出書を提出している
- 非課税事業者が「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となっている場合
- 相続により承継した事業の課税売上高が1,000万円超え
- 相続があった年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円を超える場合(相続があった日の翌日からその年の12月31日までの間)
- 法人が合併された際の課税売上高が1,000万円超え
- 合併により承継・拡大された法人の課税売上高を定められた方法で算出し、その金額が1,000万円を超える場合
- 法人が分割された際の課税売上高が1,000万円超え
- 分割された法人の課税売上高を定められた方法で算出し、その金額が1,000万円を超える場合
- 法人を新設した際の資本金又は出資が1,000万円超え
- 新たに設立した法人の資本金、又は出資が1,000万円を超える場合
- 特定新規設立法人である
- 大規模の事業者が新たに設立した法人において、その大規模事業者に課されている課税売上高が5億円を超えている場合
- 法人課税信託である
- 投資信託などを行った際などに、受益者(収益分配金や償還金の受領を受けられる保有者)に対し課せられた法人税の場合(法人が不動産を売却した際の消費税とは関係ありません)
- 調整対象固定資産の仕入れなどを行った
- 調整対象固定資産の課税仕入れなどを行った場合(免税事業者は関係ありません)
- 高額特定資産の仕入れなどをした
- 高額特定資産(一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の税抜き価格が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産)を取得した場合(免税事業者は関係ありません)
下記は、上記の特例をもとに免税事業者と課税事業者を分けたフローチャートです。
法人が不動産を売却する際には、課税義務の有無を事前にご確認ください。
土地と建物の割合を分ける方法
法人が土地建物を同時に売却した際には、それぞれの価格割合を按分する必要が出てきます。
その際に按分した建物価格に対して消費税が掛かるのですが、この按分に手間が掛かってしまうケースも多々あります。
かといって、不動産自体を税込み価格で売却してしまいますと、後に土地や建物の按分が困難となってしまう場合もあります。
法人が不動産を売却する際には、売買代金が決まった後に、土地と建物の価格を按分するのが無難です。
不動産の土地建物価格の按分方法には、主に下記の6つの方法が存在します。
これらの方法につきましては、下記で詳しくご説明致します。
固定資産税評価額から按分する方法
不動産所有者は、一定期間ごとに固定資産税という税金を納付しております。
固定資産税は「固定資産税評価額」をもとに計算がされます。
不動産を売却した際には、この固定資産税評価額から土地建物の価格按分を行うのが基本となります。
固定資産税評価額は、毎年4月頃に市町村から送られてくる「固定資産税の納税通知書」の「価格」又は「評価額」という欄に記載がされております。
固定資産税の納税通知書がお手元にないという方は、所有する不動産を管轄する市町村の役所や都税事務所などで入手できます。
例えば、固定資産額評価額が下記の金額であり、その不動産が総額「6,000万円」で売却できたとします。
不動産の種類 | 固定資産税評価額 |
---|---|
土地 | 3,000万円 |
建物 | 1,000万円 |
合計金額 | 4,000万円 |
この場合、土地と建物の固定資産税評価額の割合は下記のようになります。
- 土地……3,000万円 ÷ 4,000万円 × 100 = 75%
- 建物……1,000万円 ÷ 4,000万円 × 100 = 25%
これをもとに、売却した不動産の価格割合を按分します。
今回の例では、不動産が6,000万円で売れましたので、
土地価格が、6,000万円 × 75%(0.75) = 4,500万円
建物価格が、6,000万円 × 25%(0.25) = 1,500万円
と按分できます。
結果、建物部分の価格に相当する「1,500万円」に消費税が掛かります。
【消費税額】
1,500万円 × 8%(0.08) = 120万円
ただ、この方法には問題も存在します。
不動産価格を固定資産税評価額により按分する際の問題点につきましては、同ページの「固定資産税評価額で按分する問題」に記載しておりますのでそちらをご覧ください。
建物の時価から按分する方法
不動産価格を按分する際には、建物の適正な時価を求めて、価格を按分するという方法もあります。
この方法では、適正価格と売買価格に誤差がある場合に、実際の価格とずれてしまうという問題があります。
土地の時価から按分する方法
先ほど、建物の時価を求めて土地との価格を按分する方法を記載しましたが、反対に土地の時価を求めて建物との価格を按分する方法もあります。
この方法も、適正価格と売買価格に誤差がある場合には、実際の価格とずれるという問題があります。
それぞれの時価から按分する方法
不動産価格を按分する際には、土地建物の両方の時価を割り出し、その比率により売却価格を按分するという方法もあります。
この方法では、土地と建物両方の時価から比率を計算しますので、実際の売却価格に誤差が生じても適正な価格を計算しやすくなります。
ただ、土地建物の時価をどのように計算するのかという点に問題が出る場合もあります。
鑑定評価額から按分する方法
確実な価格按分を行いたいという場合には、不動産鑑定士に鑑定を依頼するという手もあります。
この方法では、その時点の適正な土地建物価格を按分できますが、数十万円程度の報酬が必要となるという問題も存在します。
売買時の消費税から按分する方法
不動産業者など、不動産を購入してすぐに転売するという場合には、仕入れ時の消費税をもとに価格を按分する方法もあります。
仕入れ時の契約書などに消費税の記載がある場合に限りますが、記載がある場合には、その金額から土地建物の割合を按分できます。
不動産売買時に消費税の記載がない場合や、転売するまでに時間が掛かってしまった(不動産の価格が変動する要因が存在する)場合には、この方法は使えません。
固定資産税評価額で按分する問題
固定資産税評価額が毎年変動してしまいますと、税収に対して多大な手間が掛かってしまいます。
その影響で、固定資産税評価額は3年に1度のペースでしか額が変わらず、金額の変動も少量となります。
固定資産税評価額で不動産価格を按分する際には、この影響を色濃く受けてしまう場合があります。
なぜ固定資産税評価額の評価替えの周期が価格の按分に影響してしまうのかにつきましては、下記でご説明致します。
建物の築年数が古い場合の問題点
通常、建物は築年数の経過とともに、その価値が低下していきます。
実際、築25年以上の木造住宅は、売買価格がゼロとなるケースも少なくありません。
しかし、固定資産税評価額を確認しますと、市場価格がゼロであるにも関わらず、何百万円もの評価額が残っている場合があります。
この状態で不動産価格を按分してしまいますと、市場価格がゼロの建物に対して消費税が課税されてしまいます。
適正な価格按分を行うためには、不動産鑑定士に鑑定を依頼するなどの対処が必要です。
まとめ
法人が不動産を売却した際には、免税事業者を除いて建物部分の価格に対して消費税が課税されます。
不動産の土地建物価格を按分する方法はいくつかありますが、固定資産税評価額で按分するのが一般的です。
固定資産税評価額による按分が適正でない場合には、不動産鑑定士に土地建物の価格評価を依頼するなどの対処が必要です。