法人や個人が事業用不動産を売却した際の譲渡所得と税金の計算方法
事業用不動産は個人が所有していることもあれば、法人が所有していることもあります。
個人と法人では、不動産の譲渡所得に対する課税方法が異なり、税金計算時にも注意が必要です。
今回の記事では、法人や個人が事業用不動産を売却した際の譲渡所得と税金の計算方法についてご説明致します。
目次
個人の場合の譲渡所得と税金
この項目では、個人が事業用不動産を売却した場合の譲渡所得と税金についてご説明致します。
譲渡所得と税金の計算方法について記載しておりますので、参考にしてください。
譲渡所得と税金の計算方法
個人が事業用不動産などを売却した場合は、下記のようにして譲渡所得を計算します。
「譲渡金額 – (取得費 + 譲渡費用)」
上記の「取得費」とは、その不動産の取得価額から減価償却費相当額を差し引いた額です。
お手数をお掛け致しますが、減価償却につきましては「不動産を売却した時に売却益の計算に必要になる減価償却」の記事をご覧ください。
取得費の計算が困難である場合は、「概算法(譲渡収入金額 × 5%)」で計算します。
譲渡所得が算出できましたら、その金額に税率を乗じて税額を計算します。
不動産の所有期間によって「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に分類され、税率が異なります。
分離課税ですので、他の所得とは分離して個別に課税されます。
法人の譲渡所得の計算方法
法人が不動産を売却した場合、個人の場合とは計算方法が異なります。
個人と同じ方法で課税されませんので、その点に注意が必要です。
譲渡所得の計算方法
不動産売却時、法人は下記のようにして譲渡所得を計算します。
「譲渡金額 – (土地・建物の簿価 + 譲渡費用)」
上記の「土地・建物の簿価」とは、文字通りに帳簿価額のことです。
法人は減価償却は任意であり、毎年不動産(建物のみ)の価値が減少しないため、帳簿価額を用います。
個人事業では強制償却となりますので、一定の価値が毎年減少します。
法人が売却をした場合の税金
法人が不動産を売却した場合、個人とは税金の計算方法も異なります。
同じ事業用不動産であっても、法人の場合は注意が必要です。
法人の場合の課税方法
法人の場合、譲渡所得は分離課税ではなく、総合課税となります。
分離課税は譲渡所得のみで課税されますが、総合課税は事業で得られた益金を合算し、そこから損金を差し引いた金額(「益金 – 損金」)が課税対象となります。
不動産売却によって譲渡益が出た場合は益金、譲渡損失が出た場合は損金として引渡しがあった日の属する事業年度の損益に算入します。
法人では上記で算出された課税所得に対して、「法人税」、「法人住民税」、「法人事業税」の3つを納税します(総合課税ですので、取得した日からの所有期間によって税率が異なることもありません)。
上記の3つの税金につきましては、順次ご説明致します。
法人税について
法人税は、法人の所得金額などを課税標準として課される税金です。
法人税は国税であり、直接税となります。
法人税の計算方法と税率
法人税は、法人の課税所得に対して定められている税率を乗じることで算出できます。
「課税所得 × 法人税率 = 法人税」
税率につきましては、下記のようになります。
適用関係
平成28.4.1以後
開始事業年度適用関係
平成30.4.1以後
開始事業年度中小法人、一般社団法人等、公益法人等とみなされているもの又は人格のない社団等
年800万円以下の部分19%(15%) 19%(15%) 中小法人、一般社団法人等、公益法人等とみなされているもの又は人格のない社団等
年800万円超の部分23.4% 23.2% 中小法人以外の普通法人 23.4% 23.2% 公益法人等
年800万円以下の部分19%(15%) 19%(15%) 公益法人等
年800万円超の部分19% 19% 協同組合等又は特定の医療法人
年800万円以下の部分19%(15%)
*20%(16%)19%(15%)
*20%(16%)協同組合等又は特定の医療法人
年800万円超の部分19%
*20%19%
*20%協同組合等又は特定の医療法人
特定の協同組合等の年10億円超の部分22% 22% ※表中の括弧書の税率は、平成31年3月31日までの間に開始する事業年度について適用されます。
また、表中の*の税率は、協同組合等又は特定の医療法人である連結親法人について適用されます。
申告期限及び納税の期限は、事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内となっております。
法人税の計算例
中小法人で課税譲渡所得金額が「730万円」と「3,000万円」の場合では下記のようになります。
730万円の場合 | |
---|---|
730万円 × 19% = 1,387,000円 | |
3,000万円の場合 | |
800万円以下の部分 | 800万円 × 19% = 1,387,000円 |
800万円超の部分 | (3,000 – 800万円) × 23.4% = 5,148,000円 |
1,387,000円 + 5,148,000円 = 6,535,000円 |
上記のように、所得の範囲によって税率が異なる場合は、各範囲に税率を乗じて計算しなくてはいけません。
法人住民税について
法人住民税は地方税であり、「法人都道府県民税」と「法人市町村民税」の2つの総称です。
法人の事務所がある地方自治体から課税されます。
東京23区に事務所がある場合は、都民税として一括で課税されます。
法人住民税の計算方法
法人住民税は、「法人都道府県民税」と「法人市町村民税」の「法人税割」と「均等割」を合算した金額が税額となります。
「(法人都道府県民税の法人税割 + 法人都道府県民税の均等割) + (法人市町村民税の法人税割 + 法人市町村民税の均等割) = 法人住民税」
東京23区内に事務所がある場合は、「法人都道府県民税」と「法人市町村民税」の2つを合わせて「法人都民税」となります。
「法人都民税の法人税割 + 法人都民税の均等割 = 法人都民税」
「法人税割」と「均等割」につきましては、下記のようになっております。
- 法人税割
- 法人税割は、「法人税額 × 税率(所在地により変わります)」で算出できます。
- 赤字で所得が発生せず法人税の納付が必要ない場合には、法人税割の納税義務はありません。
- 均等割
- 均等割は、「均等割額(所在地、資本金、従業員の人数などで変わります) × 算定期間中に事務所等を有していた月数/12月」で算出できます。
申告期限及び納税の期限は、事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内となっております。
法人住民税の計算例
東京23区内に事務所があり、資本金は「500万円」、従業員「30人」、法人税額「100万円」の法人都民税額は下記のようになります。
- 法人税割
- 東京23区の法人税割の税率は下記のようになります。
-
区分 税率 平成26年10月1日から
平成31年9月30日までに開始する事業年度不均一課税適用法人の税率
(標準税率)超過税率 23区内に事務所等がある場合 12.9 16.3 (道府県民税相当分3.2+市町村民税相当分9.7) (道府県民税相当分4.2+市町村民税相当分12.1) 市町村に事務所等がある場合 3.2 4.2 - ※地方法人税が創設されたため、平成26年9月30日までに開始した場合よりも税率が引き下げられました。地方法人税は平成26年10月1日以後に開始する事業年度から創設された国税であり、法人税額の4.4%を申告納付します。
- また、不均一課税適用法人の税率(標準税率)と超過税率につきましては、下記の図の基準で判定されます。
- 今回の条件では下記のように計算できます。
- 100万円 × 12.9% = 129,000円
- 均等割額
- 東京23区の均等割の税率は下記のようになります。
-
法人の区分等 主たる事務所等が所在する特別区
(都道府県+特別区分)特別区内の従業者数 均等割額 公共法人、公益法人など – 70,000円 上
記
以
外
の
法
人資
本
金
等
の
額1千万円以下 50人以下 70,000円 50人超 140,000円 1千万円超~1億円以下 50人以下 180,000円 50人超 200,000円 1億円超~10億円以下 50人以下 290,000円 50人超 530,000円 10億円超~50億円以下 50人以下 960,000円 50人超 2,290,000円 50億円超~ 50人以下 1,210,000円 50人超 3,800,000円 - 今回の条件では「70,000円」となります。
- 法人都民税の税額
- 2つを合算しますと、下記のようになります。
- 129,000円(上記1) + 70,000(上記2) = 199,000円
法人事業税について
法人事業税は地方自治体(都道府県)によって課せられる地方税であり、各都道府県に納付します。
法人事業税は来年度の損金に算入でき、この点が法人税や法人住民税と異なります。
法人事業税の計算方法
法人事業税は、「法人事業税額」と「地方法人特別税額」を合算した金額が税額となります。
「法人事業税額 + 地方法人特別税額 = 法人事業税」
「法人事業税額」と「地方法人税額」の計算方法につきましては、下記のようになります。
- 法人事業税額
- 法人事業税額は、「所得 × 税率(所在地によって変わります)」で算出できます。
- 地方法人特別税額
- 地方法人特別税額は、「基準法人所得割額(上記1) × 税率」で算出できます。
- 税率は下記のようになっております(平成28年4月1日以後平成31年9月30日までに開始する事業年度のものです)。
-
課税標準の区分 税率 外形標準課税法人の所得割額 414.2% 外形標準課税法人以外の法人の所得割額 43.2% 収入金額課税法人の収入割額 43.2% - なお、地方法人特別税は平成31年10月1日以後開始事業年度からは廃止され、全額法人事業税に復元されます。
申告期限及び納税の期限につきましては、申告の種類によって異なりますので、事前にご確認ください。
法人事業税の計算例
東京23区内に事務所があり、所得は「1,000万円」、普通法人で軽減税率適用法人の場合の法人事業税は下記のようになります。
(地方法人特別税は、外形標準課税法人以外の法人の税率で計算致します)
- 法人事業税額
- 東京23区の法人事業税の税率は下記のようになります。
-
所得を課税標準とする法人 法人の種類 所得等の区分 税率(%) 平成28年4月1日から平成31年9月30日までに開始する事業年度 不均一課税適用法人の税率(標準税率) 超過税率 普通法人、公益法人等、人格のない社団等 所得割 軽減税率適用法人 年400万円以下の所得 3.4 3.65 年400万円を超え
年800万円以下の所得5.1 5.465 年800万円を超える所得 6.7 7.18 軽減税率不適用法人 特別法人
〔法人税法別表三に掲げる協同組合等(農業協同組合、信用金庫等)及び医療法人〕所得割 軽減税率適用法人 年400万円以下の所得 3.4 3.65 年400万円を超える所得 4.6 4.93 軽減税率不適用法人 -
収入金額を課税標準とする法人 法人の種類 所得等の区分 税率(%) 平成28年4月1日から平成31年9月30日までに開始する事業年度 不均一課税適用法人の税率(標準税率) 超過税率 電気・ガス供給業又は保険業を行う法人 収入割 0.9 0.965 -
外形標準課税法人 法人の種類 所得等の区分 税率(%) 平成28年4月1日から平成31年9月30日までに開始する事業年度 不均一課税適用法人の税率(標準税率) 超過税率 地方税法第72条の2第1項第1号イに規定する法人
〔資本金の額(又は出資金の額)が1億円を超える普通法人(特定目的会社、投資法人、一般社団・一般財団法人は除く)〕所得割 軽減税率適用法人 年400万円以下の所得 (0.3) 0.395 年400万円を超え
年800万円以下の所得(0.5) 0.635 年800万円を超える所得 (0.7) 0.88 軽減税率不適用法人 付加価値割 – 1.26 資本割 – 0.525 - また、税率と軽減税率の適用につきましては、下記の図の基準で判定されます。
- 今回の条件では下記のように計算できます。
-
所得の範囲 法人事業税額 年400万円以下の所得 400万円 × 3.4% = 136,000円 年400万円を超え年800万円以下の所得 (800万円 – 400万円) × 5.1% = 204,000円 年800万円を超える所得 (1,000万円 – 800万円) × 6.7% = 134,000円 - 136,000円 + 204,000円 + 134,000円 = 474,000円
- 地方法人特別税額
- 今回の条件では下記のようになります。
- 474,000円 × 43.2% = 204,768円
- 法人事業税の税額
- 2つを合算しますと、下記のようになります。
- 474,000円(上記1) + 204,768円(上記2) = 678,768円
(100円未満は切り捨てますので、「678,700円」を納税します)
まとめ
事業用の不動産売却時には、法人と個人によって課税方法が異なります。
個人の場合は譲渡所得となり、申告分離課税となります。
所有期間によって長期譲渡所得か短期譲渡所得に分けられ、譲渡所得に税率を乗じて税額を算出します。
不動産を譲渡して得た所得のみで税額が算出されますので、他の所得との損益通算は行えません(特例によっては損益通算可能です)。
法人の場合は総合課税ですので、譲渡所得のみで課税されず、事業全体の益金と合算してそこから損金を差し引いた金額が課税対象となります。
法人は事業で得た所得(譲渡による売却代金を含みます)に対して、「法人税」、「法人住民税」、「法人事業税」が課せられます。