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事業用の不動産を売却した際に税金面で有利となる特例

      2018/12/24

事業用不動産を売却した際には、「事業用資産の買換えの特例」の適用を受けられる場合があります。

今回の記事では、事業用の不動産を売却した際に税金面で有利となる特例についてご説明致します。

事業用資産の買換えの特例について

「事業用資産の買換えの特例」は、事業用の不動産を売却した際に一定の要件を満たしている場合に適用を受けられます。

制度の概要

「事業用資産の買換えの特例」は、個人が、事業の用に供している特定の地域内にある土地建物など(譲渡資産)を譲渡して、一定期間内に特定の地域内にある土地建物などの特定の資産(買換資産)を取得し、その取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供したときは、一定の要件のもと、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができます。

将来に課税を繰り延べるだけですので、譲渡益が非課税となるわけではありません。

買い換えた事業用の不動産を売却した際に、その譲渡益と共に繰り延べられた分の譲渡益も課税されます。

売った金額(譲渡価額)よりも買い換えた金額(取得価額)の方が多い場合には、売った金額に「20%」の割合(課税割合)を乗じた額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。

売った金額より買い換えた金額のほうが少ない場合には、その差額と買い換えた金額に課税割合を掛けた額との合計額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。

※「No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例」の「2」の「(2)」の「ロ」に該当する場合の課税割合は、平成27年8月10日以後、譲渡資産が地域再生法第5条第4項第4号に規定する集中地域(※)以外の地域内に所在し、かつ、買換資産が次に掲げる地域内に所在するときは、それぞれ次に掲げる割合になります。
  1. 東京都の特別区の存する区域 30%
  2. 集中地域(東京都の特別区の存する区域を除く) 25%
    ※集中地域とは、具体的には、平成27年8月1日における次に掲げる区域をいいます。
    1. 東京都の特別区の存する区域及び武蔵野市の区域並びに三鷹市、横浜市、川崎市及び川口市の区域のうち首都圏整備法施行令別表に掲げる区域を除く区域
    2. 首都圏整備法第24条第1項の規定により指定された区域
    3. 大阪市の区域及び近畿圏整備法施行令別表に掲げる区域
    4. 首都圏、近畿圏及び中部圏の近郊整備地帯等の整備のための国の財政上の特別措置に関する法律施行令別表に掲げる区域

特例を受けるための適用要件

この特例を受けるためには、下記の8点の要件を全て満たしている必要があります。

譲渡資産と買換資産は、共に事業用のものに限られます。
事業資産となるものにつきましては、お手数をお掛け致しますが、「事業用資産の買換えの特例」をご覧ください。
譲渡資産と買換資産とが、一定の組合せに当てはまるものであることです。
詳しくは国税庁のホームページの「No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例」をご覧ください。
買換資産が土地等であるときは、取得する土地等の面積が、原則として譲渡した土地等の面積の5倍以内であることです。この5倍を超えると、 超える部分は特例の対象となりません。
平成31年(2019年)12月31日までの譲渡資産の譲渡に限って、一定の農地への買換えの場合は10倍以内とされることがあります。
資産を譲渡した年か、その前年中、あるいは譲渡した年の翌年中に買換資産を取得することです。
前年中に取得した資産を買換資産にする際には、取得した年の翌年3月15日までに「先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出書」を税務署長に提出しなくてはいけません。
譲渡した翌年中に買換資産を取得する予定であれば、確定申告書を提出する際に取得する予定の買換資産の取得予定年月日や取得価額の見積額及び買換資産が買換えの組合せのいずれかに該当するかなどの明細を記載した「買換(代替)資産の明細書」を添付する必要があります。
買換資産を取得した日から1年以内に事業に使うことです。
取得してから1年以内に事業に使用しなくなった場合は、原則として特例は受けられません。
この特例を受けようとする資産については、重ねて他の特例(優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例や租税特別措置法第19条各号に掲げる特例等)を適用することはできません。
適用を受ける特例によっては大きく不利となる場合もありますので、ご自身にとって有利となるほうを選択することが大切です。
土地等の譲渡については、原則として、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えていることです。なお、平成32年(2020年)3月31日までにした土地等の譲渡については、この要件が停止されています。
一定の組み合わせの場合には、個別の要件がありますので、詳しくは国税庁のホームページでご確認ください。
譲渡資産の譲渡は、収用等、贈与、交換、出資によるもの及び代物弁済としての譲渡ではないこと、また、買換資産の取得は、贈与、交換又は一定の現物分配によるもの、所有権移転外リース取引によるもの及び代物弁済によるものではないことです。
譲渡資産の譲渡や買換資産の取得が上記に当てはまるものである場合は、この特例を適用することはできません。

なお、東日本大震災の被害に遭われた方は、「【事業用資産や棚卸資産などに被害を受けた個人事業者の方】」をご覧ください。

適用を受けるための手続き

この特例を受けるためには、まず確定申告をする必要があります。

確定申告をする際には、確定申告書に必要な情報を記述し、下記の書類を添付して所轄の税務署に提出してください。

  1. 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
  2. 買換資産の登記事項証明書などその資産の取得を証する書類
  3. 譲渡資産及び買換資産が特例の適用要件とされる特定の地域内にあることを証する市区町村長等の証明書など
※買換資産を取得する見込みで、この特例の適用を受けた場合には、上記の「2」の登記事項証明書などは、買換資産を取得した日から4ヶ月以内に提出しなければなりません。

更正の請求や修正申告

「事業用資産の買換えの特例」を受けた場合で、申告後に買換資産の取得価額などが異なった際には、更正の請求や修正申告を行う必要があります。

更正の請求
買換資産を取得する見込みでこの特例の適用を受け申告した買換資産の「取得価額の見積額」より「実際の取得価額」の方が多かった場合には、買換資産を取得した日から4ヶ月以内に「更正の請求書」を提出して所得税の還付を受けることができます。
修正申告
買換資産を取得する見込みで、この特例の適用を受け申告した買換資産の「取得価額の見積額」より「実際の取得価額」の方が少なかった場合には、買換資産の取得期間を経過する日から4ヶ月以内に修正申告をし、差額の所得税を納付しなければなりません。
翌年中に買換資産を取得する見込みで買換資産を取得しなかった場合又は買換資産の取得の日から1年以内に事業の用に供しない若しくは供しなくなった場合は、これらの事情に該当することとなった日から4ヶ月以内に修正申告をし、差額の所得税を納付しなければなりません。

譲渡資産の譲渡所得と買換資産の取得価額の計算方法

「事業用資産の買換えの特例」の適用を受けた場合、譲渡資産の譲渡所得と買換資産の取得価額は通常と異なる方法で計算します。

計算をする際には、課税割合を使います。

課税割合につきましては、「制度の概要」の項目にて記載しておりますので、お手数をお掛け致しますが、そちらをご覧ください。

譲渡所得と取得価額の計算方法

譲渡資産売却時の譲渡所得と買換資産の取得価額の計算方法についてご説明致します。

課税割合につきましては「20%」としておりますが、譲渡資産の所在地により課税割合は異なります。

下記の「20%」や「80%」の部分は課税割合によって変更してください。

譲渡所得と取得価額の計算方法
上記で算出した金額が譲渡所得(売却資産の課税対象)や取得価額になります。

特例の適用を受けた際の計算例

これまでのことを踏まえまして、特例の適用を受けた場合の税額の計算例をご紹介致します。

混同を防ぐために譲渡資産は旧不動産、買換資産は新不動産と記載致します。

課税割合は「20%」として計算しております。

また、下記では減価償却は考慮しておりません。

「譲渡資産の売却額 < 買換資産の購入額」の例

譲渡資産の売却額よりも買換資産の購入額のほうが多額の場合の計算例です。

事業用資産の買換えの特例の計算例ケーススタディ01

事業用資産の買換えの特例の計算例01

旧不動産の譲渡所得を計算します
【収入金額】
6,000万円 × 20% = 1,200万円
【必要経費】
(3,000万円 + 500万円) × 20% = 700万円
【譲渡所得】
1,200万円 – 700万円 = 500万円
税金を計算します
500万円 × 20.315% = 1,015,750円(納税時は100円未満切り捨て)
新不動産の取得価額を計算します
(3,000万円 + 500万円) × 80% = 2,800万円
6,000万円 × 20% = 1,200万円
7,000万円 – 6,000万円 = 1,000万円
2,800万円 + 1,200万円 + 1,000万円 = 5,000万円
新不動産の敷地と家屋の取得価額を按分します
【敷地の取得価額】
5,000万円 × 4,900万円 ÷ 7,000万円 = 3,500万円
【家屋の取得価額】
5,000万円 × 2,100万円 ÷ 7,000万円 = 1,500万円

「譲渡資産の売却額 > 買換資産の購入額」の例

譲渡資産の売却額よりも買換資産の購入額のほうが少額の場合の計算例です。

事業用資産の買換えの特例の計算例ケーススタディ02

事業用資産の買換えの特例の計算例02

旧不動産の譲渡所得を計算します
【収入金額】
5,000万円 – 4,000万円 × 80% = 1,800万円
【必要経費】
(2,000万円 + 300万円) × (1,800万円 ÷ 5,000万円) = 828万円
【譲渡所得】
1,800万円 – 828万円 = 972万円
税金を計算します
972万円 × 20.315% = 1,974,618円(納税時は100円未満切り捨て)
新不動産の取得価額を計算します
4,000万円 × 80% = 3,200万円
(2,000万円 + 300万円) × 3,200万円 ÷ 5,000万円 = 14,720,000円
14,720,000円 + 4,000万円 × 20% = 22,720,000円
新不動産の敷地と家屋の取得価額を按分します
【敷地の取得価額】
22,720,000円 × 3,000万円 ÷ 4,000万円 = 17,040,000円
【家屋の取得価額】
22,720,000円 × 1,000万円 ÷ 4,000万円 = 5,680,000円

店舗併用住宅の例

店舗併用住宅の場合、要件を満たしていれば店舗部分は「事業用資産の買換えの特例」の適用を受けられます。

自宅部分は「特定の居住用財産の買換えの特例」か「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」の適用を受けられます。
(お手数をお掛け致しますが、上記2つの特例につきましては「居住用の不動産を買い替えるために売却した場合の税金と特例」、「不動産を売却した場合に税金を軽減する3000万円の特別控除」の記事をご覧ください)

今回は「特定の居住用財産の買換えの特例」の適用を受けた場合の計算例となります。

また、面積から計算する方法は、お手数をお掛け致しますが「併用住宅などの取り扱いと面積」をご覧ください。

事業用資産の買換えの特例の計算例ケーススタディ03

店舗併用住宅などを売却する場合
事業用資産の買換えの特例の計算例03

旧不動産の譲渡所得を計算します
【店舗部分】
【収入金額】
9,000万円 × 2/3 × 20% = 1,200万円
【必要経費】
(6,000万円 + 900万円) × 2/3 × 20% = 920万円
【譲渡所得】
1,200万円 – 920万円 = 280万円

【自宅部分】
旧不動産の売却額(「3,000万円(9,000万円 × 1/3)」)よりも新自宅の購入額(「3,500万円」)のほうが多額であるため、課税は将来に繰り延べられ、納税義務はありません。

店舗部分の税金を計算します(納税時は100円未満を切り捨てます)
280万円 × 20.315% = 568,820円
新不動産の取得価額を計算します
【店舗部分】
(6,000万円 + 900万円) × 2/3 × 80% = 3,680万円
9,000万円 × 2/3 × 20% = 1,200万円
1億円 – 9,000万円 × 2/3 = 4,000万円
3,680万円 + 1,200万円 + 4,000万円 = 8,880万円

【自宅部分】
(6,000万円 + 900万円) × 1/3 + (3,500万円 – 9,000万円 × 1/3) = 2,800万円

新不動産の敷地と家屋の取得価額を按分します
【店舗部分】
【敷地】
8,880万円 × 6,000万円 ÷ 1億円 = 53,280,000円
【家屋】
8,880万円 × 4,000万円 ÷ 1億円 = 35,520,000円

【自宅部分】
【敷地】
2,800万円 × 2,000万円 ÷ 3,500万円 = 1,600万円
【家屋】
2,800万円 × 1,500万円 ÷ 3,500万円 = 1,200万円

まとめ

事業用資産を買い換えた際には、「事業用資産の買換えの特例」の適用を受けられる可能性があります。

一部の売却益に対する課税を将来に繰り延べられますので、税金面で有利となります。

譲渡所得や取得価額は通常と異なる方法で計算しますので、その点に注意が必要です。

併用住宅は、事業用資産となる部分の譲渡所得に対してのみ特例の適用を受けられ、住宅部分は要件を満たしていれば「特定の居住用財産の買換えの特例」などを受けられます。

 - 不動産売却時の税金と特別控除