居住用の不動産を買い替えるために売却した場合の税金と特例
2018/12/23
居住用の不動産(住宅)を買い替えた場合で譲渡益が出た際には、「特定の居住用財産の買換えの特例」を受けられる可能性があります。
居住用の不動産を買い替えた場合で譲渡損失が出た際には、「不動産を買換えて売却損が生じた場合に損益通算できる特例」を受けられる可能性があります。
今回は前者の譲渡益が出た場合の特例についてご説明致します。
目次
特定の居住用財産の買換えの特例について
「特定の居住用財産の買換えの特例」は、マイホームなどを買換えた際に適用を受けられます。
特例につきましては、下記から順次ご説明致します。
制度の概要
「特定の居住用財産の買換えの特例」は、特定のマイホーム(居住用財産)を平成31年(2019年)12月31日まで(平成30年度税制改正大網にて延長が発表)に売って、代わりのマイホームに買換えた時は、一定の要件のもと、譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べることができる特例です(非課税とはなりません)。
特例を受けるための適用要件
特例の適用を受けるためには、下記の10点の要件を全て満たしている必要があります。
- 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- マイホーム(居住用財産)の定義につきましては、お手数をお掛け致しますが、「居住用財産とされる不動産とは」をご覧ください。
- 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の3つの要件全てに当てはまることが必要です。
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- 取り壊された家屋及びその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること。
- その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
- 東日本大震災の被害に遭われた方は、お手数をお掛け致しますが、「【東日本大震災に関する税制上の追加措置について(所得税関係)】」をご覧ください。
- 売った年の前年及び前々年にマイホームを譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(措法35条第3項に規定する空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例を除く。)又はマイホームを売ったときの軽減税率の特例若しくはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
- 以前にマイホームを譲渡して特例の適用を受けた場合にはご注意ください。
- 売ったマイホームと買換えたマイホームは、日本国内にあるもので、売ったマイホームについて、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けないこと。
- 重複適用できない特例がありますので、適用をお考えの際にはご注意ください。
- 売却代金が1億円以下であること。
- マイホームと一体として利用していた部分を別途分割して売却している場合は、マイホームを売却した年の前々年から翌々年までの5年間の分割して売却した部分も含めた売却代金により行います。
- 売った人の居住期間が10年以上で、かつ、売った年の1月1日において売った家屋やその敷地の所有期間が共に10年を超えるものであること。
- 居住期間は譲渡した日までの期間が対象となります。
- 買換える家屋の床面積が50平方メートル以上のものであり、買い換える敷地の面積が500平方メートル以下のものであること。
- 不動産を売却、購入する際には、面積についても確認が必要です。
- マイホームを売った年の前年から翌年までの3年の間にマイホームを買換えること。また、買換えたマイホームには、一定期限までに住むこと。
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- 売った年かその前年に取得した時は、売った年の翌年12月31日まで
- 売った年の翌年に取得した時は、取得した年の翌年12月31日まで
- 買換えるマイホームが、耐火建築物の中古住宅である場合には、取得の日以前25年以内に建築されたものであること、又は一定の耐震基準を満たすものであること。
- 購入する不動産が要件に該当しない場合は、適用を受けられません。
- 買い換えるマイホームが、耐火建築物以外の中古住宅である場合には、取得の日以前25年以内に建築されたものであること、又は、取得期限までに一定の耐震基準を満たすものであること。
- この要件は、平成30年1月1日以後に譲渡資産の譲渡をし、かつ、同年4月1日以後に買換資産を取得する場合に適用され、同年1月1日前に譲渡資産を譲渡した場合や同年4月1日前に買換資産を取得した場合には適用されません。
- 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと。
- 特別な関係につきましては、お手数をお掛け致しますが、「特別の関係がある人とは」をご覧ください。
詳しくは国税庁ホームページの「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」をご覧ください
適用を受けるための手続き
確定申告をする際に、確定申告書の「特例適用条文」の欄に手順に沿って「措法36条の2」と記載をし、他の項目にも必要な情報を記述し、下記の書類を添付してください。
(お手数をお掛け致しますが、詳しくは「不動産売却の際に確定申告が必要になる状況と各種申請方法」の記事と、その記事にあります「第三表(分離課税用)の書き方」の項目をご覧ください)
譲渡所得と取得価額の計算方法
この項目では買換資産に充当されなかった譲渡所得の計算方法と、買換資産の取得価額についてご説明致します。
売却額のほうが多額の場合の譲渡所得
「譲渡資産の売却金額 > 買換資産の購入金額」の場合は、新しい居住用財産(マイホーム)の購入に充当されていない譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられません。
買い替えた不動産の取得価額
「特定の居住用財産の買換えの特例」の適用を受けた際には、新しい居住用財産(マイホーム)の取得価額は、以前の居住用財産の取得価額を引き継ぎます。
取得価額は、下記の算式により算出した金額となります。
新しい居住用財産を売却する際には、上記の取得価額から減価償却などを考慮した金額が取得費となります。
不動産を売却した際の計算例
この特例の適用を受けた際の計算例(全てこの特例を適用できるものとして買い替えた不動産の売却を視野に入れず計算)を記載しておりますので、参考にしてください。
混同を防ぐために譲渡資産は旧不動産、買換資産は新不動産と記載致します。
なお、「3000万円の特別控除」とは重複適用できないため、よくお考えになってからご選択ください。
旧不動産の売却額 = 新不動産の購入額の場合
旧不動産の売却額と新不動産の購入額が同じ場合の計算例です。
旧不動産の売却額 < 新不動産の購入額の場合
旧不動産の売却額よりも新不動産の購入額が多額である場合の例です。
旧不動産の売却額 > 新不動産の購入額の場合
旧不動産の売却額よりも新不動産の購入額のほうが少額の場合の例です。
- 旧不動産の譲渡所得を計算します(※1)
- 3,200万円 – (1,000万円 + 100万円) = 2,100万円
- ※旧不動産の譲渡価額よりも新不動産の購入金額のほうが少ないため、一部しか将来に課税を繰り延べできません。
- 新不動産の購入額に充当されなかった譲渡所得(繰り延べ不可分)と充当された譲渡所得(繰り延べ分)を計算します(※2)
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【譲渡収入金額】3,200万円 – 3,000万円 = 200万円
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【必要経費】(1,000万円 + 100万円) × (200万円 / 3,200万円) = 687,500円
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【旧不動産の譲渡所得(繰り延べ不可)】2,000,000円 – 687,500円 = 1,312,500円
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【繰り延べ分の譲渡所得】21,000,000円 – 1,312,500円 = 19,687,500円
- 上記の課税譲渡所得から税額(所得税と住民税)を計算します
- 1,312,000円(1,000円未満切り捨て) × 20.315%(長期譲渡所得) = 266,532.8円
- 新不動産の取得価額を計算します(※3)
- (1,000万円 + 100万円) × (3,000万円 / 3,200万円) = 10,312,500円
- 新不動産の敷地と家屋の取得価額を按分します
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【敷地】10,312,500円 × 20,000,000円 / 30,000,000円 = 6,875,000円
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【家屋】10,312,500円 × 10,000,000円 / 30,000,000円 = 3,437,500円
旧不動産を売却した際の税額は「266,532.8円(実際には100円未満は切り捨て)」となります。
買い替えに充当した譲渡益は、課税を将来に繰り延べられます。
共有の場合
共有の不動産を売却する場合、その持分に応じて特例の適用を受けられます。
- 売却代金が1億円以下かどうかの判定
- 旧不動産を共有している場合、1億円の判定はそれぞれの共有者の方の持分ごとに判定されます。
- お2人で共有している不動産(持分は1/2ずつ)で、売却代金が「1億3,000万円」だった場合、お1人の売却代金は「6,500万円」となり、どちらの方も要件を満たしております。
- 買換える家屋と敷地の面積の判定
- 共有の不動産を売却する際は、買換資産全体の面積で判定されます。
- お2人で共有している不動産(持分は1/2ずつ)で、買換資産の面積が「家屋230平方メートル」、「敷地470平方メートル」だった場合、どちらの方も要件を満たしております。
なお、今回の条件では持分が「1/2」ずつであり、AさんとBさんは全く同じ計算で譲渡所得や新不動産の取得価額を算出できますので、1つの算式でご説明致します。
- 旧不動産の譲渡所得を計算します
- 4,600万円 – (2,000万円 + 200万円) = 2,400万円(※1)
- 2,400万円 × 1/2 = 1,200万円(※2)
- ※旧不動産の売却額と新不動産の購入額が同じであるため、上記の譲渡所得はなかったものとされ、課税は将来に繰り延べられます。
- 新不動産の取得価額を計算します
- 2,000万円 + 200万円 = 2,200万円(※3)
- 2,200万円 × 1/2 = 1,100万円(※4)
- 新不動産の敷地と家屋の購入額を按分(下記4)するため各持分の購入額などを計算します
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【買換えた敷地の購入額を按分】3,220万円 × 1/2 = 1,610万円
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【買換えた家屋の購入額を按分】1,380万円 × 1/2 = 690万円
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【新不動産全体の購入額を按分】4,600万円 × 1/2 = 2,300万円
- 上記で按分した新不動産の購入額から持分に応じた敷地と家屋の取得価額を計算します
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【敷地】1,100万円 × 1,610万円 / 2,300万円 = 770万円
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【家屋】1,100万円 × 690万円 / 2,300万円 = 330万円
店舗併用住宅の場合
お手数をお掛け致しますが、店舗併用住宅につきましては「事業用の不動産を売却した際に税金面で有利となる特例」の記事にあります「店舗併用住宅の例」の項目をご覧ください。
店舗併用住宅を全て住宅用にした場合、下記のようになります。
まとめ
「特定の居住用財産の買換えの特例」では、買換資産の購入に充当された譲渡資産の譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられます。
繰り延べられた譲渡資産の譲渡益は、買換資産を売却した際にその譲渡益と共に課税されます。
買換資産の購入に充当されなかった譲渡益は、課税を将来に繰り延べられません。
「3000万円特別控除」と重複適用できないため、よくお考えになった上でどちらを選択するかをお決めください。