居住用の不動産を売却した際に税金の負担を軽減できる5つの特例
2018/12/25
売却をする不動産が居住用財産(マイホーム)であれば、売主の方は特例を受けられる可能性があります。
目次
居住用財産を売却した場合の特例
不動産を売却しますと、場合によっては大きな譲渡益や譲渡損失が出てしまいます。
居住用財産を売却した場合、状況に応じて特例を受けられる可能性があります。
適用を受けられる5つの特例
居住用財産を売却する場合、5つの特例を受けられる可能性があります。
- 居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例
- 不動産の譲渡所得から最高3,000万円までを控除できる特例です。
- 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)
- 不動産の譲渡所得(長期譲渡所得)の税額を計算する際に、通常よりも低い税率で税額を計算できる特例です。
- 特定の居住用財産の買換えの特例
- 居住用不動産(旧居宅)を売却し、居住用不動産(新居宅)を購入した場合(買い換え)、新しく購入した居宅に充当された譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられる特例です。
- マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 居住用不動産(旧居宅)を売却し、居住用不動産(新居宅)を購入した場合(買い換え)で、売却した旧居宅に譲渡損失が生じた際に、給与所得や事業所得など他の所得から損益通算をすることができ、更にそれでも控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰越控除ができる特例です。
- 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 住宅ローンのある居住用不動産を売却した場合で、その譲渡所得が住宅ローンの残高を下回り、更に譲渡損失が生じた際には、給与所得や事業所得など他の所得から損益通算をすることができ、更にそれでも控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰越控除ができる特例です。
上記の「1」、「2」、「3」の特例は譲渡益が出た場合、「4」と「5」の特例は譲渡損失が出た場合のものです。
共通の適用要件について
各特例で適用要件は異なりますが、全てに共通している要件も存在します。
その中に「居住用財産を売却すること」と「特別な関係がある人に対して売ったものでないこと」という要件があり、どちらも基準が定められております。
居住用財産とされる不動産とは
「居住用財産」と判定をされるには、居住の用に供している家屋とその敷地を売却する、又は、居住の用に供している家屋を売却する必要があります(全て国内にあるものです)。
また、一時期に居住されていた住居であっても、下記は適用外となります。
特別の関係がある人とは
居住用財産の特例は、特別の関係がある人に不動産を売却しますと、適用を受けられません。
特殊関係者等に該当するかどうかの判定は、上記「2」を除いては、居住用財産を譲渡した時点で判定することになります。
併用住宅などの取り扱い
マイホームを売却した際の特例は、店舗併用住宅などでも適用を受けられるのかご説明致します。
併用住宅の売却をお考えの際などには参考にしてください。
併用住宅などの取り扱いと面積
店舗併用住宅などのように一部を居住の用に供している不動産は、居住用部分にだけ居住用財産の特例を適用できます。
この時、下記の算式によって求められた面積に相当する部分を居住の用に供している部分とします。
- 家屋のうち居住の用に供している部分
- 算出をした面積に小数点第3位以下の数字があれば、小数点第3位を切り上げます。
- 家屋の敷地のうち居住の用に供している部分
- 算出をした面積に小数点第3位以下の数字があれば、小数点第3位を切り上げます。
例えば、下記の設定で居住の用に供している部分の面積を計算した場合は、次のようになります。
- 家屋のうち居住の用に供している部分
- 小数点第3位以下の数字がある場合は小数点第3位を切り上げますので、「92.31m2」と算出をすることができます。
- 家屋の敷地のうち居住の用に供している部分
- 小数点第3位以下の数字がある場合は小数点第3位を切り上げますので、「188.47m2」と算出をすることができます。
なお、居住、事業の用に供している部分のどちらかが全体の90%以上であれば、全体をその用に供しているものとして特例を受けられます。
また、店舗併用住宅などを買い替えるのであれば、事業用部分には「事業用資産の買換えの特例」の適用を受けられる可能性があります。
事業用資産の買換えの特例
事業用資産には「事業用資産の買換えの特例」があり、適用を受けるには売却する不動産も新たに取得する不動産も事業用でなければいけません。
(詳しくは、お手数をお掛け致しますが「事業用の不動産を売却した際に税金面で有利となる特例」の記事をご覧ください)
事業用の不動産とは、事業・事業に準ずるものに使われていた不動産が該当します。
事業に準ずるものとは、例えば不動産の貸付けなどの場合で事業といえるほどの規模ではないものの相当の対価を得て継続的に行われるものが該当します。
これは下記の2点によって判定されます。
農業、製造業、小売業などの事業に使用されている不動産であれば、多くは事業用資産に該当します。
下記のようなものは事業用資産とはなりません。
所有期間についてですが、売却した年の1月1日時点の所有期間が5年以下の土地等の売却は、原則としてこの特例の適用は受けられません。
ただし、平成32年3月31日までに土地等を売却するのであれば、所有期間が5年以下であっても次の場合を除いて、この特例の適用を受けられます
3000万円の特別控除と買換えの特例の税額
居住用財産を住み替えのために譲渡して譲渡益が出た場合、要件を満たしていれば「3000万円の特別控除」と「買換えの特例」のどちらかの適用を受けられます。
状況によって有利なほうが異なりますので、適用を受ける前によくご検討ください。
なお、「3000万円の特別控除」は「10年超所有軽減税率の特例」も含めて税額を計算しております。
3000万円の特別控除が税金面で有利な場合
3000万円の特別控除が税金面で有利な場合の例についてご説明致します。
- 買換資産(新住宅)の購入に充当されなかった譲渡益(繰り延べ不可分)を計算します
-
【譲渡収入金額】1億円 – 4,000万円 = 6,000万円
-
【必要経費】(3,000万円 + 100万円) × (6,000万円 / 1億円) = 18,600,000円
-
【旧住宅の譲渡所得(繰り延べ不可)】6,000万円 – 18,600,000円 = 41,400,000円
- 上記の課税譲渡所得から税額を計算します
- 41,400,000円 × 20.315%(長期譲渡所得として課税) = 8,410,410円
- 買換資産(新住宅)の取得費を計算します
- (3,000万円 + 100万円) × (4,000万円 / 1億円) = 12,400,000円
- 譲渡資産(旧住宅)の譲渡所得を計算します
- 1億円 – (3,000万円 + 100万円) = 6,900万円
- 実際に課税される不動産の課税譲渡所得を計算します
- 6,900万円 – 3,000万円(3000万円の特別控除) = 3,900万円
- 上記の課税譲渡所得から税額(所得税と住民税)を計算します
-
【軽減】3,900万円 × 14.21% = 5,541,900円
-
【長期】3,900万円 × 20.315% = 7,922,850円
- 買換資産(新住宅)の取得費を計算します
- 4,000万円 + 200万円 = 4,200万円
各税額をまとめますと、下記のようになります。
各取得費をまとめますと、下記のようになります。
買換えの特例が税金面で有利な場合
買換えの特例が税金面で有利な場合の例についてご説明致します。
- 買換資産(新住宅)の購入に充当されなかった譲渡益(繰り延べ不可分)を計算します
-
【譲渡収入金額】8,000万円 – 6,000万円 = 2,000万円
-
【必要経費】(3,000万円 + 300万円) × (2,000万円 / 8,000万円) = 8,250,000円
-
【旧住宅の譲渡所得(繰り延べ不可)】2,000万円 – 8,250,000円 = 11,750,000円
- 上記の課税譲渡所得から税額を計算します
- 11,750,000円 × 20.315%(長期譲渡所得として課税) = 2,387,012.5円
- 買換資産(新住宅)の取得費を計算します
- (3,000万円 + 300万円) × (6,000万円 / 8,000万円) = 24,750,000円
- 譲渡資産(旧住宅)の譲渡所得を計算します
- 8,000万円 – (3,000万円 + 300万円) = 4,700万円
- 実際に課税される不動産の課税譲渡所得を計算します
- 4,700万円 – 3,000万円(3000万円の特別控除) = 1,700万円
- 上記の課税譲渡所得から税額を計算します
-
【軽減】1,700万円 × 14.21% = 2,415,700円
-
【長期】1,700万円 × 20.315% = 3,453,550円
- 買換資産(新住宅)の取得費を計算します
- 6,000万円 + 200万円 = 6,200万円
各税額をまとめますと、下記のようになります。
各取得費をまとめますと、下記のようになります。
買換資産を売却した際の税額
この計算例では、買換資産まで売却をした際の税額を計算しております。
譲渡資産を旧不動産、買換資産を新不動産と記載している点にご注意ください。
- 旧不動産の譲渡所得を計算します(※1)
- 3,200万円 – (1,000万円 + 100万円) = 2,100万円
- ※上記の譲渡所得はなかったものとされ、課税は将来に繰り延べられます。
- 新不動産の取得価額を計算します(※2)
- 1,000万円 + 100万円 = 1,100万円
- 新不動産の敷地と家屋の取得価額を按分します
-
【敷地】1,100万円 × 2,000万円 / 3,200万円 = 6,875,000円
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【家屋】1,100万円 × 1,200万円 / 3,200万円 = 4,125,000円
- 新不動産を売却した時に課税対象となる譲渡所得を計算します(※3)
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【敷地】40,000,000円 – (6,875,000円 + 1,500,000円) = 31,625,000円
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【家屋】13,000,000円 – (4,125,000円 + 500,000円) = 8,375,000円
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【課税譲渡所得】31,625,000円 + 8,375,000円 = 4,000万円
- ※敷地と家屋を同時に売却しておりますので、この場合では「5,300万円 – (1,100万円 + 200万円) = 4,000万円」でも課税譲渡所得を算出できます。
また、上記のうち新不動産の譲渡所得は「4,000万円(課税対象となる譲渡所得) – 2,100万円(譲渡資産の譲渡所得) = 1,900万円」です。 - 新不動産を売却した際の税額を計算します
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【3,000万円の特別控除あり】(4,000万円 – 3,000万円) × 20.315%(長期譲渡所得) = 2,031,500円
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【3,000万円の特別控除なし】4,000万円 × 20.315%(長期譲渡所得) = 8,126,000円
- ※今回の条件では、平成22年9月に新不動産を取得し、平成29年6月に売却しております。
この場合、要件を満たしていれば新不動産売却時に「3000万円の特別控除」を受けられます。
- 旧不動産の不動産の譲渡所得を計算します
- 3,200万円 – (1,000万円 + 100万円) = 2,100万円
- 旧不動産の税額を計算します
-
【3,000万円の特別控除の特例適用時】譲渡所得は「2,100万円」ですので、譲渡所得は出なかったことになり、税額は「0円」です。
- ※今回の条件では、昭和56年1月に旧不動産を取得し、平成21年12月に売却しております。
この場合、要件を満たしていれば「3000万円の特別控除」を受けられます。
所有期間も10年超えですので、要件を満たしていれば「10年超所有軽減税率の特例」の適用を受けることもできます。 - 新不動産の課税譲渡所得を計算します
- 5,300万円 – (3,200万円 + 200万円) = 1,900万円
- 上記の課税譲渡所得から税額を計算します
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【3,000万円の特別控除の特例適用時】譲渡所得は「1,900万円」ですので、譲渡所得は出なかったことになり、税額は「0円」です。
- ※今回の条件では、平成22年9月に新不動産を取得し、平成29年6月に売却しております。
この場合、要件を満たしていれば「3000万円の特別控除」を受けられます。
所有期間は10年を超えておりませんので、「10年超所有軽減税率の特例」の適用は受けられません。
旧不動産と新不動産を売却した際の税額(買換えの特例は3000万円を控除した税額)をまとめますと、下記のようになります。
まとめ
居住用財産の特例は5つあり、いずれも適用要件と適用時の措置が異なります。
所有期間や居住期間など、売却前から意識が必要な点もありますので、不動産(マイホームなど)の売却を考え始めた時点で特例について意識をしてください。