相続不動産を売却する際の取得費の特例と2種類の税金計算
不動産を売却する際には、その不動産を購入するために要した費用の多くを取得費に計上することができます。
これは、相続などにより取得した不動産も例外ではありません。
その際の取得費の計算は、通常時の取得費の計算とは異なる点がいくつか存在します。
相続不動産を売却する際には、取得費の計算方法について正しい知識を持っておくことが大切です。
取得費の金額は、後の税額に大きな影響があるといっても過言ではありません。
取得費の計算を間違ってしまうと、後の税額に誤差が生じてしまいます。
確定申告の際に、間違った税額を申告してしまうと、後に誤差の修正手続きなどをしなくてはなりません。
最悪は、加算税や延滞税などの支払いが必要となってしまう可能性もあります。
これでは、せっかく不動産を売却しても、その後の手取り金額が減ってしまいます。
また後の手取り金額を最大にするためには、それぞれ状況に応じた特例などの適用も意識をしておく必要があります。
相続財産を売却する際には、相続財産の譲渡に関する特例についても意識をしておくことが大切です。
目次
相続により取得した不動産の取得費
相続により取得した不動産の取得費は、通常時の取得費とは少々異なる計算が必要となります。
それを知らないまま取得費を計算してしまうと、後に思った以上の税金が必要となってしまう可能性があります。
そのため、正しい計算方法について、事前に把握をしておくことが必要です。
元々、取得費とは、売却した不動産を取得する際に要した各種費用のことです。
これは、不動産の購入価格だけという意味ではなく、その他取得のために要した費用も含まれます。
そのため、取得に要した
「印紙代」
「登記費用」
「測量費」
などの費用も取得費に計上することができます。
詳しい取得費に計上ができる費用につきましては、お手数をお掛け致しますが、「不動産を売却する際に必要になる各費用の計算方法と合計金額」の記事にあります「取得費として計上できる費用」の項目をご覧ください。
これらの費用をもれなく計上することが、節税の大きなポイントとなります。
しかし、相続により取得した不動産の場合、これらをもれなく計上しても大して節税とならない場合があります。
まずは、どうして相続財産を売却すると、大して節税にならない可能性があるのかについてです。
相続不動産の取得費の説明
不動産を売却した場合、税金を計算する前に取得費などの計算を行います。
取得費は、それぞれの費用をもれなく計上することで、後の税額を減らすことができるのが一般的です。
ただ、相続不動産を売却した場合には、必ずしも税額が少なくなるとは限りません。
相続により取得した不動産は、相続人の方がその不動産を購入した訳ではありません。
この場合、不動産を取得するために要した費用は、その当時に被相続人の方が負担をした費用ということになります。
その影響で、相続不動産の取得費は、その当時に被相続人の方が負担した費用を受け継いで計算をする必要があります。
(現在ではなく、当時の価値で不動産の取得費を考えなくてはいけません)
当時の不動産の価値を引き継がなくてはならないということは、かなり以前に購入をした不動産などの場合は、その価値が現在よりも少なくなってしまう可能性があるということです。
当時に要した取得費用を全て計上したとしても、「概算計算による取得費」の金額にも満たないという状況もあり得ます。
(「概算計算による取得費」は、不動産の売却価格の「5%」です)
そういった場合には「概算計算による取得費」を使用するほうが後の税額を抑えることができます。
相続不動産を売却する際には、こういった面にも注意をして、取得費を計算するようにすることが重要です。
相続不動産を売却した際に、更に問題となるのが相続税の問題です。
相続により取得した不動産を売却して売却益が出た場合、後に相応の譲渡税の支払いが必要です。
これでは、相続税と譲渡税の両方を支払うことになり、「税金を二重で支払う」という状態になってしまいます。
そのため、相続によって取得した不動産を売却する際には、相続税と取得費に関する特別な特例が用意されております。
次は、この相続税と取得費に関する特例についてご説明致します。
相続財産を譲渡した場合の特例
相続により不動産を取得した場合、相続人は相続財産に応じた相続税の納付が必要となります。
その後に相続不動産を売却した場合には、相続税以外に譲渡税などの支払いも行わなくてはなりません。
こうなると、税金を二重に支払うこととなり、金銭的に損をしてしまうことになります。
まずは、下記の事例をご覧ください。
「相続により取得した土地を売却した際の譲渡税」
Aさんは、親族から土地を相続し、相続税として「3,000万円」を支払うことになりました。
Aさんは、「3,000万円」という大金を支払うため、相続により取得した土地の1つを売却することにしました。
無事に土地の売却が終わり、結果的に土地の手取り金額は「3,000万円」となりました。
これで相続税を支払うことができると考えたAさんでしたが、今度は土地譲渡に関する「譲渡税」の支払いが必要だということになりました。
相続をした土地は、「長期譲渡所得」であるため、手取り金額の「3,000万円」に相応の税率である「20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税)」を掛けて税額を計算しました。
これにより、相続税の「3,000万円」と譲渡税の「6,094,500円」の合計「36,094,500円」の納税を行うことになりました。
上記の事例では、せっかく土地を売却しても、結局税金の支払いに関してかなりの負担があることが分かります。
こういった事態を避けるために、相続により取得した不動産を売却する際には、納税の負担を軽減するための特例が用意されております。
まずは、特例に関する説明とその適用要件についてです。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続不動産を売却すると、相続税と譲渡税の二つの税金が掛かってしまうということは既に書きました。
相続税と譲渡税を支払うことは、税の理屈からいけば当然のことなのですが、場合によっては先程の例のように、納付者側の負担が多大なものになってしまう可能性も否めません。
そのため、相続財産を売却する際には、ある程度必要な税額を軽減できる特例が用意されております。
この特例は、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」などと呼ばれています。
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を適用した場合、相続財産を譲渡した際の取得費に相続税の一部を加算できるようになります。
この特例を受けるためには、各種適用要件を満たしている必要があります。
また必要書類を準備し記載をした上で、確定申告を行うことも必要です。
各適用要件と必要書類に関しましては、次のようになります。
【相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の適用要件と必要書類】
- 適用要件
-
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること。
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること。
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。
- 必要書類
-
- 相続税の申告書の写し(第1表、第11表、第11の2表、第14表、第15表)
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】
- 確定申告書B様式第一表
- 確定申告書B様式第二表
- 確定申告書B様式第三表(分離課税用)
など
要件にはありませんが、不動産を売却後に利益がない場合(赤字)には、この特例を受けることはできませんのでご注意ください。
上記の要件を整理すると、相続財産の相続税を支払った方が、取得した日から3年10ヶ月以内(相続税の申告期限から数えると3年)に売却し譲渡益が発生すれば、この特例を受けることができるということになります。
(取得費加算の対象となる土地や土地の上に存する権利などは、「相続時精算課税」の適用を受けた財産も含まれます)
「相続開始のあった日」と「相続税の申告期限」の具体的な日にちに関しましては、次のようになります。
【相続開始のあった日・相続税の申告期限の概念】
- 相続開始のあった日
- 被相続人(財産の元の所有者)の方が亡くなった日と同じ日のことです。
- 相続税の申告期限
- 被相続人(財産の元の所有者)の方が亡くなって10ヶ月間のことです。
また相続開始前3年以内であれば、被相続人から贈与され取得した土地などの分の税金も含めることができます。
事前に不動産の贈与を受けているという方も、この特例の存在を知っておくことが大切です。
この特例を適用する際には、取得費へ加算ができる相続税の金額を計算しておかなくてはなりません。
そのためには、定められた算式を用いて、正確な金額を計算する必要があります。
次は、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」により、取得費に加算ができる相続税の金額の計算方法についてご説明致します。
取得費へ加算できる相続税の計算
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」で取得費へ加算できる相続税額は、相続税額の全額という訳ではありません。
取得費へ加算できる相続税額は、相続税の総額の内、一定の金額となります。
その金額を計算する算式は、法で定められておりますので、それに従って計算を行います。
計算の際には、
「平成27年1月1日以後の相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合」と
「平成26年12月31日以前の相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合」
で計算方法が異なりますので、ご自身の状況に合っているほうの算式で計算を行ってください。
それぞれの加算額の計算式は次のようになります。
【相続財産を譲渡した場合の取得費の特例で加算できる相続税額の計算方法】
- 平成27年1月1日以後の相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合
- 譲渡した財産ごとに次の算式により、取得費に加算する相続税額を計算します。
- スマートフォンなどでページを閲覧している方は、下記の画像が見辛い場合があります。
- そういった場合には、お手数をお掛け致しますが、画像をクリックすることで拡大された画像を閲覧することができます。
- 平成26年12月31日以前の相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合
- 譲渡した土地等と建物などの財産に分けて、次の算式により取得費に加算する相続税額を計算します。
-
- 土地等を譲渡した場合
- 平成26年12月31日以前の相続又は遺贈により取得した土地等を売却した場合には、次の算式を用いて取得費に加算する相続税額を計算します。
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- 土地等以外の財産(建物など)を譲渡した場合
- 平成26年12月31日以前の相続又は遺贈により取得した建物などを売却した場合には、次の算式を用いて取得費に加算する相続税額を計算します。
- スマートフォンなどでページを閲覧している方は、下記の画像が見辛い場合があります。
- そういった場合には、お手数をお掛け致しますが、画像をクリックすることで拡大された画像を閲覧することができます。
上記の算式の項目について、分からないものがある場合には、次の算式の細目をご覧ください。
【算式の細目】
- 平成27年1月1日以後の算式の細目
- 「平成27年1月1日以後の相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合」の算式の各項目の詳しい説明は次のようになります。
-
-
「その者の相続税額」
- 「その者の相続税額」とは、相続財産を譲渡した日が含まれる年分の所得税の納税義務が成立する時(一般的には12月31日)において、確定している相続税の金額のことです。
- (2016年に不動産を売却したとしたら、納税義務が成立するのは2016年12月31日ですので、その時点で確定している相続税の金額となります)
- 相続税の申告が完了する前に相続財産を譲渡してしまった場合には、その譲渡に関する所得の申告期限日(確定申告の期限)までに相続税の申告を行えば、その確定申告時に「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を受けることができます。
-
「その者の相続税の課税価格」
- 「その者の相続税の課税価格」とは、ご自身が財産を相続した際に、相続税の計算に使用した財産価格のことです。
- 例えば、「土地評価額(資産価値)が2億円の土地」と「金融資産(預金など)1億円」の2つを相続により取得した場合には、両方を合計した「3億円」を算入します。
-
「その者の債務控除額」
- 「その者の債務控除額」とは、被相続人が残した借入金などの債務金額のことです。
- 相続税を計算する際には、これらの金額を遺産総額から差し引くことができます(相続時精算課税の適用を受ける贈与財産がある場合には、その価額も遺産総額に加算します)。
- この金額には、葬式費用も含めることができます。
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額」
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額」とは、相続により取得した財産の内、譲渡した財産部分だけに対応する相続税評価額(相続税を計算する際に税率を掛けた金額の内訳)のことです。
- 相続税を納付した際の相続税評価額の内、譲渡した部分のみの相続税評価額を算入します。
- 【例】
-
- 相続により取得した財産とその内訳(相続税評価額)
- 「3億円分」
-
- 土地A
- 「1億円」
- 土地B
- 「8,000万円」
- 土地C
- 「3,000万円」
- 建物
- 「1,500万円」
- 金融財産
- 「7,500万円」
- 売却をした相続財産
- 「土地C」のみ
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額」に算入する金額
- 「3,000万円」
- 上記のような例では、相続財産の総額の内、売却をした「土地C」に対応する相続税評価額である「3,000万円」のみを算式に算入します。
-
「取得費に加算する相続税額」
- 「取得費に加算する相続税額」とは、特例により実際に取得費へ加算できる相続税の金額のことです。
- その際の金額は、上記の項目を前述の算式に当てはめ算出をします。
- 同一の年内に、2つ以上の相続財産を売却した場合には、原則譲渡した日の早い譲渡資産から順次控除を行います。
- (違った順序で控除を行っても差し支えありません)
- なお、その際には、それぞれの譲渡財産別に加算できる相続税額を計算する必要があります。
- ですから、どちらか一方の相続財産の譲渡益が赤字となってしまった場合には、そちらの譲渡に関して「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を受けることはできません。
- (譲渡益が赤字となった相続財産に係る相続税を片方の譲渡に係る取得費に加算することもできません)
- 平成26年12月31日以前の算式の細目
- 平成26年12月31日以前の相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合の算式の各項目の詳しい説明は次のようになります。
-
- 土地等を譲渡した場合
-
- 「その者の相続税額」
- 上記の「その者の相続税額」と同じです。
- 「その者の相続税の課税価格」
- 上記の「その者の相続税の課税価格」と同じです。
- 「その者の債務控除額」
- 上記の「その者の債務控除額」と同じです。
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされた土地等の価額の合計額」
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされた土地等の価額の合計額」とは、相続により取得した財産の内、土地等に係る全ての相続税評価額のことです。
- (「土地等」とは、土地及び土地の上に存する権利のことです)
- 棚卸資産又は準棚卸資産であった土地等、物納した土地等及び物納申請中の土地等などがある場合には、それらを除いた合計額を算入してください。
- 【例】
-
- 相続により取得した財産とその内訳(相続税評価額)
- 「3億円分」
-
- 土地A
- 「1億円」
- 土地B
- 「8,000万円」
- 土地C
- 「3,000万円」
- 建物
- 「1,500万円」
- 金融財産
- 「7,500万円」
- 売却をした相続財産
- 「土地C」と「建物」
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額」に算入する金額
- 「2億1,000万円」
- 上記のような例では、「建物」と「金融財産」の相続税評価額を除いた、土地全ての相続税評価額「2億1,000万円」を算式に算入します。
- 「取得費に加算する相続税額」
- 上記の「取得費に加算する相続税額」と同じです。
- 土地等以外の財産(建物など)を譲渡した場合
-
- 「その者の相続税額」
- 上記の「その者の相続税額」と同じです。
- 「その者の相続税の課税価格」
- 上記の「その者の相続税の課税価格」と同じです。
- 「その者の債務控除額」
- 上記の「その者の債務控除額」と同じです。
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した建物などの価額」
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した建物などの価額」とは、相続により取得した財産の内、譲渡した建物部分だけに対応する相続税評価額(相続税を計算する際に税率を掛けた金額の内訳)のことです。
- 相続税を納付した際の相続税評価額の内、譲渡した建物部分のみの相続税評価額を算入します。
- 【例】
-
- 相続により取得した財産とその内訳(相続税評価額)
- 「3億円分」
-
- 土地A
- 「1億円」
- 土地B
- 「8,000万円」
- 土地C
- 「3,000万円」
- 建物
- 「1,500万円」
- 金融財産
- 「7,500万円」
- 売却をした相続財産
- 「土地C」と「建物」
- 「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額」に算入する金額
- 「3,000万円」
- 上記のような例では、土地の相続税評価額を除いた、「建物」に対応する相続税評価額「3,000万円」のみを算式に算入します。
- 「取得費に加算する相続税額」
- 上記の「取得費に加算する相続税額」と同じです。
上記の算式で算出された金額が、本来の譲渡価額を超える場合には、その譲渡価額相当額が取得費への加算金額となります。
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」により計算した金額が元の譲渡益よりも大きかったとしても、その分の税金が還付される訳ではありませんのでご注意ください。
(税金の納付金額が0円になるということになります)
これらの算式と各項目を確認すると、「平成27年1月1日以後に取得した相続財産」を譲渡する際には、取得費へ加算ができる金額が大幅に減額されてしまうのが分かります。
次は、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の実際の計算例をもとに、これら金額の違いなどについてもご説明致します。
特例を適用した際の取得費の計算例
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を適用するためには、前述の算式で取得費へ加算できる相続税額を計算しておかなくてはいけません。
その算式を見てみると、
「平成26年12月31日以前の相続などにより取得した土地等」
を売却した場合、
「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされた土地等の価額の合計額」
を計算に用いることができるということが分かります。
これは、「取得した全ての土地の価額」を算入することができるということであり、場合によっては非常に高額な金額を取得費に加えることが可能となります。
(譲渡していない土地等の相続税評価額の分まで加算ができる)
それに対して、
「平成27年1月1日以後の相続などにより取得した土地等」
を売却した場合、算式に算入ができるのは、
「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額」のみです。
これでは、「取得した全ての土地の価額」ではなく、「譲渡した土地等の価額に対応する相続税評価額」しか算入することができないということになります。
(譲渡していない土地等の相続税評価額の分は加算ができない)
この法令の改正により、場合によっては、取得費に加算できる相続税の金額が大幅に異なってしまう可能性があります。
実際に、下記の条件で相続財産を取得したと仮定して、計算を行ってみます。
- 法定相続人の人数
- 「1人」
- 相続により取得した財産
- 「3億円分」
- 【取得した財産の内訳】
- 土地A
- 「1億円」
- 土地B
- 「8,000万円」
- 土地C
- 「3,000万円」
- 建物
- 「1,500万円」
- 金融財産
- 「7,500万円」
- 納付した相続税の金額
- 「9,180万円」
- 売却する相続財産
- 「土地C」と「建物」
この場合、取得費へ加算できる相続税の金額は次のようになります。
- 【平成27年1月1日以後に相続財産を取得した場合】
- 譲渡した財産ごとに計算をしますので、今回譲渡した「土地C」と「建物」は、それぞれ別に「取得費に加算する相続税額」を計算していきます。
-
- 「土地C」の計算
- 今回は、課税された相続税評価額が「3億円」です。
- 譲渡した「土地C」の相続税評価額は「3,000万円」です
- そういった場合には、お手数をお掛け致しますが、画像をクリックすることで拡大された画像を閲覧することができます。
- 今回の例で取得費に加算できる「土地C」の相続税額は「918万円」となります。
- 「建物」の計算
- 今回は、課税された相続税評価額が「3億円」です。
- 譲渡した「建物」の相続税評価額は「1,500万円」です。
- これらの金額を各項目に当てはめると次のようになります。
- スマートフォンなどでページを閲覧している方は、下記の画像が見辛い場合があります。
- そういった場合には、お手数をお掛け致しますが、画像をクリックすることで拡大された画像を閲覧することができます。
- 今回の例で取得費に加算できる「建物」の相続税額は「459万円」となります。
- 上記の2つの金額を合計した「1,377万円」が取得費に加算する相続税額です。
- 【平成26年12月31日以前に相続財産を取得した場合】
- 譲渡した「土地等」と「建物」を分けて「取得費に加算する相続税額」を計算していきます。
-
- 「土地C」の計算
- 今回は、課税された相続税評価額が「3億円」です。
- 譲渡した「土地C」の相続税評価額は「3,000万円」なのですが、「平成26年12月31日以前の相続により取得した土地等」は、譲渡していない部分の土地等の相続税評価額も計算に含めることができます。
- 今回は土地等の相続税評価額の全額(「土地A+土地B+土地C」)である「2億1,000万円」を式に算入します。
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- そういった場合には、お手数をお掛け致しますが、画像をクリックすることで拡大された画像を閲覧することができます。
- これらの金額を各項目に当てはめると次のようになります。
- 今回の例で取得費に加算できる「土地C」の相続税額は「6,426万円」となります。
- 「建物」の計算
- 今回は、課税された相続税評価額が「3億円」です。
- 譲渡した「建物」の相続税評価額は「1,500万円」です
- これらの金額を各項目に当てはめると次のようになります。
- スマートフォンなどでページを閲覧している方は、下記の画像が見辛い場合があります。
- そういった場合には、お手数をお掛け致しますが、画像をクリックすることで拡大された画像を閲覧することができます。
- 今回の例で取得費に加算できる「建物」の相続税額は「459万円」となります。
- 上記の2つの金額を合計した「6,885万円」が取得費に加算する相続税額です。
これらを見てみると、法令の改正の改正後と改正前では、取得費に加算できる相続税額が大幅に変わってしまうことが分かります。
取得費に加算ができる相続税額がこれだけ異なると、当然に後の譲渡税の計算などにも大きな影響が出てきます。
最後は、もし、取得時期以外の全てが同じ条件の相続財産を売却した場合には、税額にどの程の差が出てしまうのかについてご説明致します。
特例を適用した際の税額の計算例
先程は、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」により取得費へ加算できる相続税額を計算しました。
その結果、
「平成27年1月1日以後に取得した相続財産の場合」と
「平成26年12月31日以前に取得した相続財産の場合」
とでは、その金額が大幅に異なる可能性があるということが分かりました。
先程の例でいうと、
「平成27年1月1日以後に取得した相続財産の場合」は取得費へ加算する相続税額が「1,377万円」
「平成26年12月31日以前に取得した相続財産の場合」は取得費へ加算する相続税額が「6,885万円」
となり、その差は「5,508万円」にもなります。
これは、後の税額が最大
「長期譲渡所得」で「約11,189,500円」
「短期譲渡所得」で「約21,828,200円」
も変わる可能性があるということになります。
下記は、取得時期以外の条件が同じ相続不動産を、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を適用して売却した場合の税額の計算例です。
売却不動産の条件は、先程の項目の【相続財産の仮条件】のものを使用します。
不動産の売却価格やその他の費用などの条件に関しては、下記のように仮定します。
【不動産を売却した際の条件】
- 売却する相続財産の売却価格(譲渡価額)
- 「6,500万円」
-
【売却不動産の内訳】
- 土地C
- 「4,000万円」
- 建物
- 「2,500万円」
- 土地・建物の取得費
- 不明であるため「概算取得費」を使用
-
- 土地Cの取得費
- 4,000万円×5%=200万円
- 建物の取得費
- 2,500万円×5%=125万円
- これらに、前項目の【取得費へ加算する相続税額の計算】で計算をした金額を加算します。
- 譲渡費用
- 「300万円」
- 不動産の所有期間
- 「5年を超えている」
- (相続不動産の所有期間は、相続により取得した日ではなく、「被相続人の方の所有期間」を引き継ぎます)
不動産の「課税譲渡所得」を計算する際の計算式は、次のようになります。
【計算式】
課税譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除
この計算式で算出された金額に、定められた税率を掛けたものが譲渡税の金額です。
今回の例では、所有期間が5年を超える不動産を売却しておりますので、税率は「長期譲渡所得」のものを使用します。
「長期譲渡所得」の税率は、「20.315%」となります。
(「所得税」、「復興特別所得税」、「住民税」の税率の合計)
不動産を売却した際の税金の税率やその区分につきましては、お手数をお掛け致しますが、「不動産売却をした際に適用できる特例や2種類の税率と計算」の記事にあります「譲渡所得税と住民税の税率」の項目をご覧ください。
この条件で、実際に税額を計算すると、その金額は次のようになります。
(概算取得費の合計額は、「200万円+125万円=325万円」)
【実際の譲渡所得税の計算】
- 【平成27年1月1日以後に相続財産を取得した場合】
- 65,000,000円-{(3,250,000円+13,770,000円)+3,000,000円}×20.315%=9,137,687円
- 計算後の税額に「100円未満」の値がある場合には、それを切り捨てますので、納付が必要な税額は「9,137,600円」となります。
- 【平成26年12月31日以前に相続財産を取得した場合】
- 65,000,000円-{(3,250,000円+68,850,000円※)+3,000,000円}×20.315%=0円
- 今回の例では、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」により取得費へ加算できる相続税の金額が、譲渡価額の金額を上回っております。
- この場合、前述の通り、譲渡した不動産の譲渡価額相当額が取得費へ加算できる相続税額となります。
- マイナスとなった金額分は考慮せず、納付が必要な税額を「0円」とします。
上記の例では、後の税額に「9,137,600円」もの差が出てしまうということになります。
相続財産を売却する際には、こういった差額について十分に考慮をしておくことが大切です。
ご自身が、いつ相続不動産を取得したのかをよく確認しておけば計算方法を間違えてしまうということもなくなります。