不動産売却時の税金計算で適用できる10年超所有軽減税率の特例
2018/12/21
不動産には幾つもの種類がありますが、売却をするのが居住用財産である場合、「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」の適用を受けられる可能性があります。
今回の記事では不動産売却時の税金計算で適用できる10年超所有軽減税率の特例についてご説明致します。
多額の譲渡益が予想される場合などには、特にこちらの特例についてご確認ください。
なお、この特例は「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」と重複適用をすることができます。
お手数をお掛け致しますが、上記の特例につきましては「不動産を売却した場合に税金を軽減する3000万円の特別控除」の記事をご覧ください。
目次
居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)について
「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」は、居住用財産を売却した際に適用を受けられる特例です。
マイホームなどの居住用財産を売却した際には、こちらの特例についてご確認ください。
注意が必要な点もありますが、多くの場合適用を受けて損をすることはありません。
制度の概要
「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」は、居住用財産(マイホームなど)を売却して譲渡益が出た場合に、その家屋の所有期間が10年を超える場合に課税長期譲渡所得の税額を通常の場合よりも低い税率で計算することができるという特例です。
この特例により軽減税率で計算ができる課税長期譲渡所得金額は、「6000万円以下」の部分です。
「6000万円超」部分につきましては、通常の課税長期譲渡所得の税率で計算を行います。
(詳しい税率につきましては、「適用を受けた場合の税率」に記載しております)
特例を受けるための適用要件
「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」の適用を受けるためには、下記の5点の要件を全て満たしている必要があります。
- 日本国内にある自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地の場合には、住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。また、これらの家屋が災害により滅失した場合には、その敷地を住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。
- 居住用財産とされる不動産の定義につきましては、お手数をお掛け致しますが、「居住用財産とされる不動産とは」をご覧ください。
- 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の3つの要件全てに当てはまることが必要です。
-
- 取り壊された家屋及びその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること。
- その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
- 東日本大震災の被害に遭われた方は、上記の要件を満たしていなくても適用を受けられる場合があります。
- お手数をお掛け致しますが、詳しくは「【東日本大震災に関する税制上の追加措置について(所得税関係)】」をご覧ください。
- 売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること。
- 所有期間が10年を超えない居住用財産を売却した際には、この特例の適用を受けることはできません。
- 売った年の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていないこと。
- 前年及び前々年にこの特例の適用を受けた場合は、利用できません。
- 売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例を受けていないこと(ただし、マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができます)。
- 3,000万円の特別控除以外とは重複適用できません。
- 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと。
- 特別の関係につきましては、お手数をお掛け致しますが、「特別の関係がある人とは」をご覧ください。
上記の要件を全て満たしている場合は、この特例を適用することができます。
詳しくは国税庁ホームページの「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」をご覧ください。
重複適用ができない特例もありますので、よくお考えになってから適用を受けてください。
適用を受けた場合の税率
「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」の適用を受けた場合、課税譲渡所得に乗じる税率が軽減されます。
この特例の適用を受けた場合は、下記の税率で税金を計算します。
課税長期譲渡所得金額 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 10.21% | 4% |
6,000万円を超える部分 | 15.315% | 5% |
この特例の適用を受けた際には、譲渡所得のうち「6,000万円以下」の部分は「14.21%(所得税と住民税を合わせた税率)」を乗じて税額を算出します。
譲渡所得のうち「6,000万円超」部分は、「20.315%(所得税と住民税を合わせた税率)」を乗じて税額を算出します。
特例によって軽減税率で計算できるのは「6,000万円以下」の部分のみですので、その点にはご注意ください。
「6,000万円」を超える部分につきましては、通常の課税長期譲渡所得の税率で税額を計算します。
適用を受けるための手続き
「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」の適用を受けるためには、手続きをする必要があります。
この特例を受けるためには、まず確定申告をしなくてはいけません。
確定申告をする際には、確定申告書の「特例適用条文」の欄に手順に沿って「措法31条の3」と記載し、他の項目にも必要な情報を記述します。
(お手数をお掛け致しますが、詳しくは「不動産売却の際に確定申告が必要になる状況と各種申請方法」の記事と、その記事にあります「第三表(分離課税用)の書き方」の項目をご覧ください)
確定申告書の作成ができましたら、確定申告書に下記の書類を添付して所轄の税務署に提出してください。
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
- 売った居住用家屋やその敷地の登記事項証明書
また、居住用財産(マイホームなど)の売買契約日の前日においてそのマイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合などには、上記の書類に加えて下記の書類も添付してください。
- 戸籍の附票の写し
- 消除された戸籍の附票の写し
- その他これらに類する書類でその居住用財産(マイホームなど)を売った人がそのマイホームを10年以上居住の用に供していたことを明らかにするもの
上記の書類などが必要となりますが、詳しくは所轄の税務署などにお問い合わせください。
適用を受けた場合の税金の計算方法
「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」の適用を受けた場合は、課税譲渡所得に乗じる税率が軽減されます。
特に計算自体が複雑になるという訳ではありませんが、計算方法が曖昧である方はこちらもご確認ください。
まずは、譲渡益が6000万円以下の場合の計算方法をご紹介致します。
なお、「不動産を売却した場合に税金を軽減する3000万円の特別控除」の記事にあります「各不動産を売却した時の計算例」の項目にて、「3000万円特別控除」と重複適用を受けた場合の計算例をご紹介しております。
重複適用をお考えの方は、お手数をお掛け致しますが上記も併せてご覧ください。
譲渡益が6,000万円以下の場合
譲渡益が「6,000万円以下」である場合は、定められている税率を課税譲渡所得に乗じることで税額を計算できます。
こちらの場合は下記の算式によって求められる金額が、納める税額となります。
税額を求めるための算式 | |
---|---|
所得税 | 課税長期譲渡所得金額 × 10.21%(復興特別所得税も含む) |
住民税 | 課税長期譲渡所得金額 × 4% |
この特例の適用を受けた場合は、上記のようにして税額を計算します。
所得税と住民税を分けて計算しなくてもいい場合には、下記の算式で2つの税額を算出できます。
「課税長期譲渡所得金額 × 14.21%(復興特別所得税も含む)」
下記に通常の課税長期譲渡所得の税額との比較を記載しておりますので、確認をしてみてください。
今回は譲渡益が「1,000万円」、「3,000万円」、「6,000万円」の場合の税額を計算しております。
1,000万円 | 軽 減 |
1,000万円 × 14.21% = 1,421,000円 |
---|---|---|
長 期 |
1,000万円 × 20.315% = 2,031,500円 | |
3,000万円 | 軽 減 |
3,000万円 × 14.21% = 4,263,000円 |
長 期 |
3,000万円 × 20.315% = 6,094,500円 | |
6,000万円 | 軽 減 |
6,000万円 × 14.21% = 8,526,000円 |
長 期 |
6,000万円 × 20.315% = 12,189,000円 |
適用を受けますと、これだけ税額に差が出ます。
場合によっては数百万円以上の節税に繋がりますので、大きく税負担が軽減します。
譲渡益が6,000万円を超える場合
譲渡益が「6,000万円」を超える場合は、先程とは税額の計算方法が異なります。
こちらの場合は、下記の算式によって求められる金額が税額となります。
税額を求めるための算式 | |
---|---|
所得税 | (課税長期譲渡所得金額 – 6,000万円) × 15.315% + 6,126,000円 |
住民税 | (課税長期譲渡所得金額 – 6,000万円) × 5% + 240万円 |
6,000万円を超える場合は、上記のようにして税額を計算します。
なお、上記の所得税の算式の「+6,126,000円」と住民税の算式の「+240万円」についてですが、こちらは「6,000万円以下」の部分の税額を意味しております。
「+6,126,000円」は「6,000万円 × 10.21%」、「240万円」は「6,000万円 × 4%」と置き換えることもでき、これを含めることで上記の算式ですぐに「6,000万円」を超えた時でも税額を計算できます。
また、所得税と住民税を分けて計算しなくてもいい場合には、下記の算式で2つの税額を算出できます。
「(課税長期譲渡所得金額 – 6,000万円) × 20.315%(復興特別所得税も含む) + 8,526,000円」
下記に通常の課税長期譲渡所得の税額との比較を記載しておりますので、確認をしてみてください。
今回は譲渡益が「7,000万円」、「8,500万円」、「1億円」の場合の税額を計算しております。
7,000万円 | 軽 減 |
(7,000万円 – 6,000万円) × 20.315% + 8,526,000円 = 10,557,500円 |
---|---|---|
長 期 |
7,000万円 × 20.315% = 14,220,500円 | |
8,500万円 | 軽 減 |
(8,500万円 – 6,000万円) × 20.315% + 8,526,000円 = 13,604,750円 |
長 期 |
8,500万円 × 20.315% = 17,267,750円 | |
1億円 | 軽 減 |
(1億円 – 6,000万円) × 20.315% + 8,526,000円 = 16,652,000円 |
長 期 |
1億円 × 20.315% = 20,315,000円 |
適用を受けますとこれだけ税額に差が出ます。
軽減税率で計算をできるのは「6,000万円以下」の部分のみですが、適用を受けることで大きく税負担を軽減できます。
まとめ
「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」の適用を受けますと、軽減税率で税金を計算できます。
通常は「20.315%(所得税は15.315%、住民税は5%)」である課税長期譲渡所得が、「6,000万円以下」の部分までは「14.21%(所得税は10.21%、住民税は4%)」で計算を行えます。
「6,000万円」を超える部分につきましては、通常の長期譲渡所得の税率で税額を計算します。
納める税金が減りますので、税負担を軽減できます。
「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10年超所有軽減税率の特例)」は、「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」と重複適用もでき、その場合には更に納める税額が減ります。
譲渡所得から「最高3,000万円」を控除し、更に軽減税率で税金を計算しますので、大きく節税に繋がる場合もあります。
重複適用を行うには2つの特例の適用要件を満たしている必要がありますので、その点には注意が必要です。