不動産を売却して譲渡損失が生じた際の税金と損益通算の特例
2018/12/24
マイホームを売却する際には、譲渡損失が生じる場合もあります。
不動産売却による譲渡損失(申告分離課税)は、給与所得などの他の所得とは損益通算や繰越控除を行えません。
ただし、不動産を売却して譲渡損失が生じた場合で、一定の要件を満たしている際には、他の所得と損益通算や繰越控除を行える特例があります。
損益通算や繰越控除を行える特例を「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といい、この記事ではこの特例について記載致します。
なお、居住していた不動産を買換えて譲渡損失が生じた際には、「マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けられる可能性があります。
お手数をお掛け致しますが、上記の特例につきましては「不動産を買換えて売却損が生じた場合に損益通算できる特例」の記事をご覧ください。
目次
特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例について
「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」は、居住用財産を売却した際に適用を受けられる特例です。
居住用財産を売却して譲渡損失が生じた場合に、一定の要件を満たしていればこの特例を受けられます。
概要などにつきましては、順次ご説明致します。
制度の概要
「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」は、平成31年(2019年)12月31日までに住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)することができ、さらに損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除(繰越控除)することができます。
他の所得と不動産の譲渡損失を損益通算や繰越控除できますので、不動産売却によって他の所得に対する税金の負担を軽減することが可能です。
譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除できますが、譲渡損失が全て控除された場合には、その年の翌年から繰越控除は行えません。
反対に、譲渡の年の翌年以後3年内に全ての譲渡損失について繰り越し控除できなかった場合には、譲渡損失が残っていても繰越控除は行えません。
譲渡損失の損益通算限度額
この特例の適用を受けますと、譲渡損失と他の所得を損益通算や繰越控除できます。
損益通算には限度額が定められており、それを超える金額を他の所得と損益通算することはできません。
損益通算の限度額につきましては、売買契約日の前日の住宅ローン残高から売却価額を差し引いた金額となります。
下記が損益通算の限度額の例です。
上記の場合、譲渡損失は「2,000万円(売却代金) – 6,000万円(購入代金) = ▲4,000万円」です。
損益通算限度額につきましては、「3,000万円(借入金残高) – 2,000万円(売却代金) = 1,000万円」です。
上記の例では譲渡損失が「4,000万円」ありますが、損益通算の限度額は「1,000万円」となります。
住宅のローンの残高が損益通算の限度額の計算に必要であるという点に注意が必要です。
特例を受けるための適用要件
「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けるには、次の5つの要件全てに当てはまることが必要です。
- 自分が住んでいるマイホーム(譲渡資産)を譲渡すること。なお、以前に住んでいたマイホームの場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。また、この譲渡には譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けが含まれ、親族等への譲渡は除かれます。
- マイホーム(居住用財産)とされる不動産の定義につきましては、お手数をお掛け致しますが、「居住用財産とされる不動産とは」をご覧ください。
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また、住んでいた建物又は住まなくなった建物を取り壊した場合(更地としてから売却をする場合など)は、次の3つの要件全てに当てはまることが必要です。
- 取り壊された家屋及びその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が5年を超えるものであること。
- その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
- 譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超えるマイホーム(譲渡資産)で日本国内にあるものの譲渡であること。
- 所有期間が5年未満の不動産は、この特例の適用を受けることはできません。
- 災害によって滅失した家屋で当該家屋を引き続き所有していたとしたら、譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超える家屋の敷地の場合は、その敷地を災害があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで(住まなくなった家屋が災害により滅失した場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで)に売ること
- 東日本大震災の被害に遭われた方は、災害があった日から7年を経過する日の属する12月31日までであればこの特例の適用を受けられる場合があります。
- お手数をお掛け致しますが、詳しくは「【東日本大震災に関する税制上の追加措置について(所得税関係)】」をご覧ください。
- 譲渡したマイホームの売買契約日の前日において、そのマイホームに係る償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること。
- 売買契約日の前日にそのマイホームに係る償還期間10年以上の住宅ローンの残高があることが条件となります。
- マイホームの譲渡価額が上記4の住宅ローンの残高を下回っていること。
- 譲渡価額が住宅ローンの残高を上回るのであれば、適用を受けられません。
詳しくは国税庁のホームページの「No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」をご覧ください。
特例の適用除外
損益通算と繰越控除のどちらも受けるためには、一定の要件に該当している必要があります。
場合によっては、繰越控除などが行えないこともありますので、この特例の適用をお考えの際にはご注意ください。
下記に該当する場合には、適用除外となります。
- 繰越控除が適用できない場合
- 合計所得金額が3,000万円を超える年がある場合は、その年のみ適用できません。
- 損益通算及び繰越控除の両方が適用できない場合
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下記の要件に当てはまっている場合は、損益通算及び繰越控除の両方適用できません。
- 親子や夫婦など特別の関係がある人に対してマイホームを売却した場合
(特別の関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売却した後その売却した家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係にある法人なども含まれ、お手数をお掛け致しますが、詳しくは「特別の関係がある人とは」をご覧ください) -
マイホームを売却した年の前年及び前々年に次の特例を適用している場合
- 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例(措法31の3)
- 居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除(措法35。ただし、同条第3項に規定する被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例を除く)
- 特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36の2)
- 特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36の5)
- マイホームを売却した年の前年以前3年以内の年において生じた他のマイホームの譲渡損失の金額について、特定のマイホームの譲渡損失の損益通算の特例を適用している場合
- マイホームを売却した年又はその年の前年以前3年内における資産の譲渡について、マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41の5第1項)の適用を受ける場合又は受けている場合
- 親子や夫婦など特別の関係がある人に対してマイホームを売却した場合
- なお、この特例と住宅借入金等特別控除制度は併用できます。
上記に該当する場合には、ご注意ください。
特に損益通算と繰越控除のどちらも受けることを視野に入れている方は、要件についてよく確認が必要です。
適用を受けるための手続き
この特例を受けるためには、まず確定申告をする必要があります。
確定申告をする際には、確定申告書の「特例適用条文」の欄に手順に沿って「措法41条の5の2」と記載し、他の項目にも必要な情報を記述し、下記の書類を添付して所轄の税務署に提出してください。
(お手数をお掛け致しますが、詳しくは「不動産売却の際に確定申告が必要になる状況と各種申請方法」の記事にあります「第三表(分離課税用)の書き方」の項目をご覧ください)
- 損益通算の場合
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マイホームの売買契約日の前日においてそのマイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合などには、戸籍の附票の写し、消除された戸籍の附票の写しその他これらに類する書類でそのマイホームを売った人がそのマイホームを居住の用に供していたことを明らかにするものを、併せて提出してください。
- 「特定居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)」
- 「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書(租税特別措置法第41条の5の2用)」
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売却したマイホームに関する次の書類
- 登記事項証明書や売買契約書の写しなどで所有期間が5年を超えることを明らかにするもの
- 「譲渡資産に係る住宅借入金等の残高証明書」(売買契約日の前日のもの)
- 繰越控除の場合
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繰越控除を受けるためには、次のことが必要です。
- 損益通算の適用を受けた年分について、上記「(1)」の全ての書類の添付がある期限内申告書を提出したこと。
- 損益通算の適用を受けた年分の翌年分から繰越控除を適用する年分まで連続して確定申告書(損失申告用)を提出すること。
詳しくは所轄の税務署にお問い合わせください。
損益通算と繰越控除ができる所得
「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けた場合、不動産の譲渡損失とその他の所得を損益通算及び繰越控除することができます。
損益通算及び繰越控除ができる所得は、下記のものです。
- 給与所得
- 事業所得
- 不動産所得
- 退職所得
- 利子所得
- 配当所得
- 一時所得
- 山林所得
- 雑所得
- 総合譲渡所得
上記の所得が全て損益通算及び繰越控除でなくなった場合、納税義務もなくなります。
なお、他に不動産の譲渡益(分離課税)がある場合、特例などを受けなくても不動産の譲渡所得(分離課税)同士は損益通算できます。
複数の不動産の譲渡益や譲渡損失がある際には、よくお考えになってから特例の適用を受けてください。
売却損の損益通算と繰越控除
「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けますと、他の所得と損益通算及び繰越控除が行えます。
損益通算及び繰越控除を行うことで、納める税金が少なくなります。
適用を受けた際の税額につきましては、下記からご説明致します。
特例適用時の税金の計算方法
損益通算や繰越控除と税金につきましては、「不動産を買換えて売却損が生じた場合に損益通算できる特例」の記事にあります「特例適用時の税金の計算方法」の項目にて記載しております。
計算方法は同様ですので、お手数をお掛け致しますが、上記をご覧ください。
計算例につきましても、上記記事の「特例の適用を受けた際の計算例」の項目にて記載しております。
損益通算及び繰越控除の例を記載しておりますので、こちらも併せてご覧ください。
ただし、上記は損益通算の限度額について触れておりません。
こちらの特例は損益通算に限度額がありますので、その点にだけは注意をしながら計算方法や例をご確認ください。
まとめ
ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じた際には、「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を受けられる可能性があります。
この特例の適用を受けることで、譲渡損失と他の所得を損益通算でき、更に控除しきれなかった分は一定の期間まで繰越控除を行えます。
損益通算の限度額は借入金残高によって異なりますので、残高が少ない場合は、損益通算できる金額が少額となります。
また、売主の方の状況によっては、繰越控除などを行えない可能性があります。
損益通算も繰越控除も視野に入れている方は、適用要件に注意が必要です。